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『図書』2025年12月号 目次 【巻頭エッセイ】角野栄子「リンドグレーンさん、あなたが大好き」

◇目次◇
〈ピッピ80年、今こそリンドグレーンの物語を〉
リンドグレーンさん、あなたが大好き……角野栄子
読者を裏切らないひと……三浦しをん
ピッピの時間……木村草太
ピッピが愛される国で出会った、リンドグレーンの想い……さわひろあや
読んで、読んで、読み続けて……越高綾乃
     * 
【インタビュー】映画というものを本格的に擁護したい……蓮實重彥
日本文学研究と教育の50年(下)……ハルオ・シラネ
賽銭箱に見つけた答え……嶋田奈穂子
ゲルツェンと福沢諭吉……長縄光男
『不屈のひと』と如是我聞……石田陽子
名作で締めくくりたい12月……柳家三三
12月、お鍋に入れたい魚介類……円満字二郎
人間を探究する18世紀ドイツ哲学の十九世紀……山本貴光
人と人がつながる本屋で未来を作る……大和田佳世
外婚制共同体家族の構造と嫁たちのプレッシャー……鹿島茂
恨は怨ではない……中村佑子

12月の新刊案内

(表紙=志村ふくみ 《窓辺》団栗、白樫)
[表紙に寄せて]糸 竹中優子
 
 
◇読む人・書く人・作る人◇
リンドグレーンさん、あなたが大好き
角野栄子
 

 1988年、オスロでのIBBY(国際児童図書評議会)大会初日のこと。私は会場に向かうエレベーターに飛び乗った。すると閉まったはずのドアがすぐ開いて、目の前に一人の老嬢が細い杖に身を預けるようにして立っていた。私の全身はビビッ。一瞬でわかった!(リンドグレーンさんだ!)その人はゆっくりとエレベーターに乗り込むと、私の右側に立った。目を合わすこともできずうつむくと、彼女の足が目に入った。枯れ枝のように細いけれど頑丈そうな足。(これはまさしくピッピの足!)

 ──ピッピにはお母さんも、お父さんもいませんでした。ほんとうのところ、それも具合の良いことでした──私も母を亡くしたけど、具合の良いことなんてなかった。でも、ピッピは空を向いて、「心配しないで! 私はちゃんとやってるから!」と叫ぶ。それはきっと願いを込めた叫び。だって、大丈夫なはずはない。大きな悲しみをひっくり返して、ピッピはピッピになったのだ。目も眩むようなその行動に、誰もが納得し、喝采し、憧れる。彼女の作品を読むたびに、私はピッピになる。

(かどの えいこ・日本児童文学作家)

 
◇こぼればなし◇

〇 今年も残すところひと月です。戦後80年にあたり、小社は「その基点を確かめる」というスタンスのもと、各ジャンルで関連の新刊や復刊の出版に取り組んでまいりました。1945年以前生まれの人が人口の約12%となった2025年は、「戦後」という括りで語ることができる最後の節目の年だったのかもしれません。

〇 12月刊のアンソロジー『私の戦後80年、そしてこれからのために』(岩波書店編集部編)は、そうした問題意識から編まれました。執筆者は各界で活躍する様々な世代の約40人。各世代がどう生きてきたのか。これからどのように生きていくか。戦争体験者の声とともにお届けします。

〇 戦争に突き進む日本を止められなかったことへの反省から生まれた総合雑誌『世界』も大きな節目を迎えました。創刊1000号となる12月号特集は「私たちはどう生きてきたか」。創刊80年の2026年1月号特集は「それでも人間を信じる」。戦後まもなくの初期編集メンバーから時代を経て引き継がれてきた問題意識は、「これからどうなる」ではなく「これからどうする」だったといいます。連続特集は『世界』初代編集長、吉野源三郎の著作から発想したものです。

〇 ピッピ、やかまし村、名探偵カッレ等々のシリーズで世界中の子どもたちに愛されてきたアストリッド・リンドグレーン(1907―2002)。この度、「リンドグレーン・コレクション」に新たに6作品が新訳・新装丁で仲間入りします。まずは12月に『やねの上のカールソン』(イロン・ヴィークランド絵、石井登志子訳)を刊行し、1月には『ミオよ、わたしのミオ』(菱木晃子訳、酒井駒子絵)が出ます。

〇 最初の作品『長くつ下のピッピ』が1945年に発表されて今年で80年。それにも合わせ、本号ではリンドグレーン小特集を組みました。三浦しをんさんがお書きくださっているように、「絶えることのないたき火」を次の世代に手渡し続けていきたいです。

〇 2025年度の文化勲章を、王貞治さん、小松和彦さん、辻惟雄さんら八氏が受章されました。

〇 岩波新書『ピーター・ドラッカー──「マネジメントの父」の実像』(井坂康志著)が日本リスクマネジメント学会優秀著作賞を受賞しました。

〇 小誌表紙と表紙裏で展開してきました志村ふくみさんの裂と現代詩のコラボレーションは本号が最終回となります。2026年1月から、表紙は宮﨑駿さんのイメージボードから掲載し、表紙裏は、各界の方に表紙を意識しつつ短いエッセイをご寄稿いただきます。

〇 円満字二郎さんの「漢字の水族園in広辞苑」、柳家三三さんの「落語家十二カ月」も本号が最終回です。ご愛読ありがとうございました。


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