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『図書』6月号【試し読み】宮本憲一/野矢茂樹

◇目次◇

疫病対策の都市史に学ぶ      宮本憲一
笑いについて           野矢茂樹
その期に調べあれば        藤田真一
クラウドファンディングで司法をひらく 周防正行
加藤典洋さん           船曳建夫
御成婚の森の雁皮         猪瀬浩平
小さな「語り」の大きな力     上野直子
仏基の思想の稀有な一致      間瀬啓允
親への三つの懺悔         瀧井朝世
「モダン」への終わりなき旅路   山室信一
結核をめぐる二つの物語      斎藤真理子
あとには戻れないならば      藤原辰史
これこれ石の地蔵さん       片岡義男
黄金の仮想現実          橋本麻里
隣にいるのは誰か         長谷川 櫂
こぼればなし

(表紙=司修) 
(カット=高橋好文) 

 

◇読む人・書く人・作る人◇

疫病対策の都市史に学ぶ

宮本憲一

 

 新型コロナウイルスはこの社会のシステムの欠陥を明らかにした。被害の特徴は公害と似ている。公害は年少者・高齢者・障碍者等の生物的弱者と社会的弱者に集中するので、自主自責に任せず社会的救済が必要である。金銭賠償では復元できない不可逆的絶対的損失を発生させないためには予防が第一である。新型ウイルスの被害も公害と同じようだが、予防が難しい。しかし同じく予見の難しい自然災害の予防で取られる「事前復興」対策が検討されてよい。まずは公衆衛生を軸とする医療体制の改革であるが、根底は被害を深刻にした東京一極集中の国土と文明の変革である。

 一六六〇年代のロンドンはペストと大火で深刻な被害にあった。この再建計画を考えたのが社会統計学の創始者ウイリアム・ペティである。彼は内外の都市を比較検討しこの災害を繰り返さないためにロンドンの人口と都市区域を制限する再建案を出した。これは一八八八年のロンドン条例の先駆となり、現代のグリーンベルトや田園都市・ニュータウンに生きている。

 このような都市史に学ばず、大東京圏は世界都市間競争で経済の集積利益を求めて、超高層ビルと稠密な交通網からなる災害に弱いメガロポリスを作り上げた。地震と異常気象に新型疫病などの災害の世紀に入り、大東京圏をこのままにすれば、国土の社会経済の破綻は避けがたいことが今回はっきりした。当面は感染症の終息だが、「事前復興」策を作り、国土の環境を破壊し大東京圏集積を進めるリニア新幹線建設をまず、中止するべきではないか。

(みやもと けんいち・環境経済学)

 

◇試し読み◇

笑いについて

野矢茂樹

 

「ご隠居さん、こんちわ」
「誰かと思えば熊さんかい。よく来たね。おあがりよ」
「よく来たってほどのもんじゃねえんですけどね、ちょっと聞きたいことがあって来たんすよ」
「ほう。なんだろうね」
「笑うでしょう?」
「いや、笑わないよ」
「そうじゃなくて、笑うでしょ?」
「笑わないから言ってごらん」
「だからね、笑うんですよ、みんな。おかしいことがあると、ワハハって。ご隠居さんだって笑うでしょ?」
「ふむ、おかしいことがあると笑うな。ワハハではなくともクスリとか」
「なんで笑うんですかね」
「そりゃ、おかしいからだろう」
「なんで、おかしいんですかね」
「おまえさんの方が今日はよっぽどおかしいね。どうかしたのかい?」
「今日のあっしの疑問はまじめですからね、まじめに答えてくださいよ」
「わたしはいつだってまじめだよ」
「そうですかあ? このまえなんか矢が当たってカーンていうから〈ヤカン〉だとか、元大関の豆腐屋がおからをくれなかったんで身投げした元太夫の話とか、いいかげんなこと言うからなあ」
「なにを言うか。ほら、これをごらん」
「なんですか?」
「ベルクソンの『笑い』という本だ。他にもあれこれある。よいしょ、これはぶ厚いぞ。ハーレーとデネットとアダムズ三人で書いた『ヒトはなぜ笑うのか』」
「読んだんすか?」
「読んだ。完全に分かったわけではないのだが、なんだかどれも違うぞと思ってな。自分でも考えてみたんだよ」
「ひまですねえ」
「おまえに言われたかないよ。隠居というのはそういうものだ。青黄な粉でお茶を点てるばかりが隠居じゃない」
「で、そのベルなんとかってのはなんて言ってんです?」
「何冊か積み上げたけれど、読んで一番面白いのはベルクソンだな。いろんな洞察に満ちている。だから一言でまとめてしまうのも気が進まないのだが……」
「ややこしく言われると、そっちの方があっしとしては気が進まねえんで」
「どう言えばいいかな。ほら、仕事なんかでも、うまくいっているときはよどみなく、なめらかに物事が運ぶだろう」
「そりゃあ、そういうもんです」
「でも、ときにはぎくしゃくして、こわばるというのかな、ぶざまなことになることもあるだろう」
「しょっちゅうっすよ」
「そういうときに笑いが生じる。笑うというのは、そんな硬直した状態にある人に対して、〈そんなんじゃだめだよ〉と教えるものだと言うのだな」
「するってえと、笑いがない世の中が一番いいってことになるんですかね」
「どうしてだい?」
「そうじゃないですか。だって、だめじゃなくするために笑うんだったら、誰もだめじゃなくて笑わない世の中が一番いいことになるっしょ」
「なるほど、そうだねえ」
「だいたいあっしがだめだと、うちのかかあなんか笑わねえで怒りますよ」
「しょっちゅう怒られてるんだろう」
「朝から晩までガミガミガミガミ。なんなんでしょうね、あれは。むしろ笑いって、だめでもいいじゃんって言ってくれるようなとこ、ないですかね」
「うむ。談志も〈落語は人間の業の肯定である〉と言っていた」
「人間だけですか?」
「なにが」
「笑うの、人間だけですかね」
「いや、サルやチンパンジーは笑うらしいな。ネズミだって笑うという話もあった。ネズミをくすぐると笑うんだとさ」
「でも冗談言って笑ったり、ドジ踏んだやつ笑うのは人間だけじゃないすか」
「たぶんそうだろうな」
「どうしてでしょうね」
「そうだな、この本、ハーレーとデネットとアダムズが書いたこの本は、その問いに答えようとしてる」
「なんて書いてあるんです?」
「人間は生存競争を勝ち抜いて生き延びてきた。人間が笑うのは、笑いがそれに貢献しているからだと考える。じゃあ、笑うとどういういいことがあるのか」
「笑いながら仕事するとまじめにやれって怒られちまいますが、笑うことが競争に勝つのに役立つってんですね」
「そう。そこで彼らはひとつの仮説を立てて、それであらゆる笑いを説明してやろうと野心的な研究に乗り出すわけさ」
「へえ、どんな仮説なんですか?」
「わたしたちは行動するときにいろんなことを信じて行動するだろう?」
「いえ、あっしはどうも無信心で」
「別に神仏というわけじゃない。冷蔵庫に飲み物があると信じて、のどが乾いたら冷蔵庫を開ける。そんなんだよ」
「ああ、そうすか。まえにご隠居さんとこ行けば〈ただの〉酒が飲めると信じて駆けつけちまったみたいなやつですか」
「〈灘の〉酒な。それで、信じていることの中にまちがいがあったりちぐはぐなものがあったりしたらまずいだろう」
「そりゃあ、おっつけしくじりますね」
「だから、そういうまちがいを見つけるとうれしくなる仕組みがあると生き残るのに役立つ。それで、信じていることの中にまちがいを見つけると人はおかしさを感じて笑う、と、こういうわけだ」
「なんか、あれですね、犯人つかまえるとうひょひょって喜ぶ警官みたいすね」
「なんだかよく分からんが、ま、そうかもしれない」
「そうすると、これもさっきのベルちゃんと同じで、笑いがない世の中がいっちいいってことになりますか?」
「たぶんそうなるだろうな」
「そういうもんですかねえ」
「彼らの理論に従えば、人間が生き残るのにだいじなことほど、まちがいを見つけた報酬、つまり、おかしさと笑いというご褒美だな、それが大きくなるはずだ。だけどどうもわたしには、この考え方は的を外しているように思えるんだ」
「くっだらねえことの方がよく笑いますよね。下ネタとか」
「不敬なことや性に関わることといった、いささか障りがあるようなものが世間ではよく笑いの種にされているな」
「都会もんが田舎もんをコケにするようなネタもありますよね」
「あまりいい笑いじゃないが、そういった類のジョークはどんな国にもある。この本ではそういう事例を自分たちの仮説で説明しようとやっきになるわけだ」
「うまくいってるんですかい?」
「それは慎重に検討してみないと分からないが、どうもわたしは熊さんが言ってた、なんだっけ、犯人つかまえてうひょひょと喜ぶ警官、うん、そんなふうに笑いを捉えるのは違う気がするんだな」
「じゃ、ご隠居さんの考えってのはどういうんです?」
「わたしの考えかい? じゃ、披露するから長屋のみんなを集めておくれ。菓子や料理も用意してな。おい、ばあさん、座布団をたくさん出しておくれ」
「なに言ってんですか」
「あ、すまん、なにか一瞬別のものが乗り移っちまった」
「わけ分かんねえな。で、いったい笑いってなんなのか、どうして笑うのか、ご隠居さんはどう思うんです?」
「おほん。あー。難しいのはだな、一口に笑いと言ってもいろいろな笑いがあることだ。ワハハと大口をあけて笑うのもあれば、微笑もある。照れ笑いやあざ笑うなんてのもある。愛想笑いというのもあるし、その場の雰囲気でたいしておもしろくもないのに笑うこともある」
「くすぐられても笑いますよね」
「そう。赤ん坊は〈いないいないばあ〉でも笑う」
「泣くことや怒ることより、笑うことの方がたくさん種類がありそうですね」
「だから、〈笑いとはこれこれである〉と威勢よく言い切りたいけれども、なかなかそうもいかない。どこか一部分が似ているもの同士が集まって、〈笑い〉という名前の一つの家族を作っているとでも言った方が実情に近いだろう」
「じゃあ、こういう笑いはこうで、こういう笑いはこう、ってぐあいに種類ごとにやるんですか」
「さまざまな笑いを別々に考えるのじゃなくて、くすぐられて笑うような、いわば動物的な笑いを一方において、もう一方の端っこに人間の社会に特徴的な笑いの形をおいて、それをつなげる線を引くことが必要だろうと思う」
「一方の端っこにある、人間の社会に特徴的な笑いってなんです?」
「それはすぐあとでわたしの考えを言うよ。ともかく、そんなふうに線が引かれたら、くすぐりから社会的な笑いに至る途中にいろいろな脇筋ができて、そこにさまざまな笑いが位置づけられる」
「なんだか話がぼやんとしてて見えてこないすね」
「しょうがないよ、わたしにだって見えてないんだから。それでな、これまでよく言われてきたのは、笑いというのはズレに関わるということだ」
「ズレっていうと、なにかこうなるぞと思ってたらそうはならなくて、なーんだ、あははって感じですか?」
「そうそう。これはけっこう正しいと思えるし、実際多くの人たちがその方向で考えたな。しかし何と何のズレなのか、何からズレるのかについては諸説ある」
「ご隠居さんの諸説はどうなんです?」
「まあまあそう急かしなさんな」
「もったいぶって茶なんかすすってないで、やい、とっとと白状しろっ」
「乱暴だね、どうも。ちょっとお待ち。枝雀が〈キンカンの法則〉というのを提唱したのだけれども」
「枝雀ってのは誰です?」
「二代目桂枝雀。もう亡くなったがね」
「キンカンの法則ってのは?」
「緊張と緩和。それでキンカンという。笑いは緊張がまずあって、それが緩和するところに生じるという理論だ」
「ネタじゃないんすか?」
「まじめな主張だよ。だいたい枝雀という人は……、いや、よしとこう。ともかく、このキンカンの法則もいいところを突いているとわたしは思うんだ」
「分かった! ズレとキンカンをあわせて考えようってわけですね」
「ご明察。しかし、それじゃあ、まだ足りないものがある。何からのズレかという、肝心なところだよ」
「でも、それこそいろいろあるんじゃないんですか?」
「実にいろいろある。だけど、笑いの一方の極端として、とりわけ人間の社会に特徴的なものを取り出したいんだ。わたしはそれは〈こうしなくちゃいけない〉〈こうでなければならない〉という社会的な縛りからのズレだと思う。そういった縛りのことを〈当為〉とか〈規範〉というが、まあ、〈規範〉という言葉を使わせてもらおうか」
「世の中の決まりみたいなもんですか」
「規則として立てられているものだけじゃなくて、暗黙の圧力もあるし、常識みたいなものもあるな。とにかく、それに反したあり方やそれに従わない行動は、どこか居心地が悪いし、ときには罰せられることもある。だけど、そうして世の中の規範に従うのも、肩がこるわな」
「そうですねえ。あんまり決まりを守らなかったり非常識だったりするのも困りもんですが、がちがちに四角四面にやるのも息が詰まるってもんで。あ、それで笑いが必要ってことですか?」
「そういうことだ。〈当然こうなるはずだ〉〈こうあるべきだ〉〈こうしなくちゃいけない〉と、規範に縛られてわたしたちは生きている。だけどね、人というのはどうしたってそこからはみ出してくるものだよ。それを、はみ出したらいかんと罰したり縛りを強めたりするのではなくて、ときにははみ出してもいいんだと、規範を緩める場を設けてやることもだいじなんじゃないかね」
「そりゃそうだ。そういうのがなけりゃ生きていけやしねえでしょう」
「それは、規範から外れる、つまりズレることであり、同時に規範に従わなくちゃいけないという緊張から解放されることでもあるわけだ」
「あ、ズレの話とキンカンの話がくっついたんですね」
「しかもだいじなのは、そこに安心感があることだ。ふつうは規範から外れたら咎められたり、まずい結果になったりするものだが、この場合はけっしてお咎めを受けないし、まずいことにもならないという安心感がなくちゃいけない」
「安心感がなければ緊張しっぱなしになるでしょうね」
「うん、それじゃだめだ。安心して規範から外れる。そうして緊張から解放されて心身ともに弛緩して、笑いという反応が生じる。これがわたしの考えだ」
「でも、そうじゃないような笑いもたくさんあるような気がしますけどね」
「そうしたいろいろな笑いをぜんぶまとめて説明する仮説を出そうなんて思ってやしないさ。人間の社会に特徴的な笑いとくすぐりによる笑いのようなものを両極端に置いといて、まずはそこをつなげてあげたいんだ」
「規範から外れることによる笑いってのは人間の社会に特徴的なんですか?」
「〈こうあるべきだ〉とか〈こうしなくちゃいけない〉なんてのは社会が押しつけてくるものだと思うね。タブーに触れるようなことがよくジョークになるというのも、実社会では破ってはいけないタブーを安心してコケにする場を設けてやるということなんだと思うよ」
「寄席なんてのはまさに安心して規範から外れられる場所なわけですね」
「そうそう」
「人によって笑いのツボが違ったりするのも、何か関係がありますか?」
「おおありだな。何に笑うかは時代や文化によっても違う。それも規範の縛りがそれぞれに違うからだろう」
「仲間内でしか受けない冗談てのもありますもんね。それで、くすぐられて笑っちゃうのはどうなりました? つなげるって言ってましたよね」
「そう。それはまったく別々のものではありえない。どこかでつながりがある」
「つながりますかね」
「実はくすぐるとどうして笑うのかというのはまだよく分かっていないらしい。でも、私の思いつきを言ってみるとね、まず、自分で自分をくすぐってもくすぐったくないな。それから、くすぐったい場所とそうでもない場所がある」
「脇の下とか、あごの下とかはくすぐったいですね」
「そこは攻撃されると大きなダメージを受ける弱い部分だ。だから、他人がそこに触れると緊張する。でも、攻撃されるんじゃなくてこちょこちょされるわけだな。そこで緊張から解放される」
「で、笑う、と。ほんとかなあ」
「くすぐられて笑うことには社会的な規範からのズレという要素はないが、こういう緊張からの解放が、笑いの原型としてあるんじゃないかな。そこから、人間社会に特有の笑いへとつながっていく。その途中でいろいろな笑いの形が派生的に生まれてくる」
「挨拶したり相槌打ったりするとき、別におかしくなくても笑顔になりますね」
「人は笑おうと思えばある程度はわざと笑える。だからいろんな種類の笑いが生まれもする。人付き合いで笑顔を作るのは〈社交の笑い〉というやつだよ。笑顔を作ることで、相手にメッセージを伝えたいのだろう」
「メッセージ、ですか?」
「うん。安心して規範から外れるときに笑いが生じるのだとすると、逆に、笑うことによって、それが〈ここは安心していい場所ですよ〉というメッセージになるんじゃないかな」
「なるへそねえ。おもしれえや。まだあれこれ聞きたくなりますが、でも今日はもう紙数も尽きたんで、最後にもう一つ聞いていいですか」
「なんだい?」
「ご隠居さんの冗談てえのは、どうしていつもつまんないんすか」
「そんなふうに言うもんじゃないよ。わたしだって、なんとかしようと思って、冗談を習いに行ったこともあるんだ」
「へえ。冗談を。で、どうでした?」
「いや、それがね、あくびばかりが上手になったよ」

 (のや しげき・哲学)

 

◇こぼればなし◇

◎ 新型コロナウイルス(COVID-19)が世界的に猛威をふるっています。この列島も例外ではなく、感染者は激増。四月七日の非常事態宣言以降、たとえば都心の風景は一変しました。

◎ ランチ時に通りにあふれていた人波は影をひそめ、臨時休業を知らせるポスターが貼られたシャッターを下ろす飲食店が数多くみられます。テレワークへの取り組みによって出勤する人たちが減れば、稼ぎ時のランチタイムでも商売にはならない、ということでしょう。

◎ たまたま開いている店に入ってみましたが、客はまばらで、そのうえ、店側が客同士の距離を確保するように配慮して席に案内しているようですから、店内はより閑散と感じられます。

◎ 飲食店だけでなく、書店も大きな影響を被っています。報道によると、非常事態宣言を受けて、三省堂書店が神保町本店をはじめとして対象地域の一三店舗を休業としたほか、紀伊國屋書店も新宿本店、大阪の梅田本店など三八店舗を休業。くまざわ書店は六一店舗、有隣堂は三六店舗、丸善ジュンク堂書店は三五店舗を休業とし、それ以外の店舗でも時短での営業を余儀なくされています。

◎ 四月一六日には、休業する書店が一〇〇〇店規模になったとの報道もありました。ショッピングモールのような商業施設にテナントとして入居する多くの書店は、書店自体が休業要請の対象ではなくても、入居施設の事情にあわせて休業せざるをえず、単独の店舗であっても、従業員の感染を避けるため自主的に休業を選択する書店もあるとのことです。いずれであっても、書店をめぐる厳しい現状は変わらないということでしょう。

◎ 版元もまた例外ではなく、厳しい環境のもとにあります。小学館や集英社、講談社をはじめ、小社でも感染者が確認されました。非常事態宣言が出される以前から、在宅勤務や時差通勤の推進といった感染拡大防止を図る対策をとってまいりましたが、獰猛なウイルスから逃れることはかないませんでした。

◎ 今後も小社は、社員ならびに関係者の方々の安全を最優先に考え、感染拡大を防ぐために必要な対応を行ってまいりますが、そのために通常の業務をこれまでどおりに遂行することが困難になることも予想されます。なにとぞ読者のみなさまのご理解を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

◎ COVID-19感染拡大の影響は、書店や版元だけでなく、印刷所や製本所、取次にまで――出版活動全体におよんでいます。事態が劇的に改善されないかぎり、刊行の遅延や延期だけでなく、書籍の刊行そのものがむずかしくなるかもしれない、厳しい状況になってゆくことはまちがいないでしょう。

◎ しかしながら、こうした環境であるからこそ書籍が、読書という行為が求められているのもまた、確かなことです。事態を冷静に見つめ、自身の命を守る確かな行動のためにも。

◎ 山室信一さんの連載は本号で終了です。ご愛読ありがとうございました。

 

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