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『科学』5月号

 
小誌は、科学界と社会を結ぶ雑誌として1931年に石原純、寺田寅彦らによって創刊されて以来、科学の進展と、科学と社会の間で起こるさまざまな問題を見つめてまいりました。
 今回の大災害は、本当に言葉を超えた事態に思います。将来の時点から現在の転回点を振り返るときに、本誌が時代の証言を記録しえているように、企画活動に取り組んで参りたいと存じます。
 
 
〇定価(本体1333円+税)
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◇目次◇

特集 地震予測の新しい考え方
479 2016年熊本地震:単純な予測と複雑な現実 ――震源断層モデルとは何か……島崎邦彦
490 [座談会]地震予測と「第4の科学」 ――データに駆動された新たなアプローチへ(前編) ……尾池和夫・金田義行・北川源四郎・鳥海光弘・樋口知之
499 人工知能で変わる地震・噴火・気象現象の予測 ……井田喜明
505 [インタビュー]南海トラフ地震:これからの研究・社会の備え ……平田 直
510 千島海溝〜日本海溝の超巨大地震・津波堆積物の 検討と「長期評価」……平川一臣
514 大地震発生予測における歴史地震研究の役割 ――1498年明応「日向灘?」地震を例にして……原田智也

429 巻頭エッセイ  地震研究と歴史学――異分野連携のもつ可能性……榎原雅治

467 2013年汚染米問題を“なかったこと”にした 原子力規制委員会と秘密会議……青木美希

432 幻獣遊学5 空を飛ぶ猿……大村次郷
437 広辞苑を3倍楽しむ98 太陽系外惑星とアストロバイオロジー……田村元秀
438 これは「復興」ですか?14 飯舘村の7年……豊田直巳
475 3.11以後の科学リテラシー65 ……牧野淳一郎
522 ちびっこチンパンジーと仲間たち197 チンパンジーの毛からストレスをはかる――社会関係が大事 ……山梨裕美・寺本 研・野上悦子・森村成樹・平田 聡
524 科学技術・イノベーション政策のために6 ポスト冷戦,ポスト911の科学技術と政策……小林信一
532 市民社会と行政法47……大浜啓吉
 
[科学通信]
443 7300年前に破局噴火を起こした鬼界カルデラに巨大溶岩ドームが成長……巽 好幸
449 〈リレーエッセイ〉地球を俯瞰する自然地理学 崩れゆく火山体の地形学……吉田英嗣
452 〈リレーエッセイ〉地球を俯瞰する自然地理学  山岳積雪調査とリモートセンシングを組み合わせた積雪水資源量の推定……松山 洋
454 自民党への投票者もその他の政党への投票者も過半が原発を拒否している ――2017年10月の衆議院議員選挙結果と同年12月に実施した全国アンケート調査結果から考察する……広瀬弘忠
461 検証・原発新規制基準適合性審査  柏崎刈羽原発:液状化影響評価に誤りが判明した設置変更許可……滝谷紘一
465 甲状腺検査の最新結果について……平沼百合
466 訂正
 
536 訂正
489 次号予告
表紙デザイン=佐藤篤司
本文イラスト=山下正人 
 

◇巻頭エッセイ◇

地震研究と歴史学――異分野連携のもつ可能性
  榎原雅治 (えばら まさはる 東京大学史料編纂所)

 いうまでもないことだが,明治以前の日本人は地震が起こるメカニズムなど知るはずはないし,震源という発想すらもっていない。それでも広域に及ぶ地震の揺れや,諸地域で連続して発生する地震があることは知っていた。当時の人々にとっては不可思議きわまりない現象だったのではないかと思うが,「江戸では二日にあったが,この辺りは三日だった」といった表現に出くわすと,地震を台風のような感覚でとらえ,それなりに納得していたのではないかとも思う。
 そうしたこともあってか,江戸時代の日記を見ると,地震の有無や強弱に関する記事は日々の天気に続けて書かれていることが多い。江戸時代には,全国各地で藩の役人,寺社の役職者,村の庄屋,商家の主人など,さまざまな人々が日記をつけていたが,それらに記載された地震の揺れに関する記述を集成してゆけば,観測機器のなかった時代の有感地震の日別のデータベースができるのではないか。そんなプロジェクトが地震と日本史の研究者の協力によって始まっている。そして1854年12月の安政東海・南海地震から翌年11月の安政江戸地震に至るまでの間の各地の日別の震動状況や地域ごとの特徴が少しずつ分かり始めている。歴史研究者として地震解明につながる貢献ができるようにと,無い知恵を絞っているところである。
 一方で,この取組は歴史学に対してもいくつかの問題を投げかけている。たとえば時間の理解。明治以前の日本では,1日を12等分した定時法と,日出/日没で昼と夜を分け,それぞれを6等分する不定時法(当然,季節によって伸び縮みする)が併用されていたことはよく知られているが,二つの物差しで記された史料を対照させて,同一時刻の事象かどうかを判定するということは,従来の歴史研究ではあまり必要なかった。瞬時の情報伝達方法のほとんどない時代では,人間の営み自体が時間差をもって動いているのだから,史料上の多少の時間のずれはあまり問題にならなかったのだ。しかし地震を扱う場合,一つの地震による揺れなのか,それとも余震なのか,震源を異にする別の地震なのか判定するためには,時間表記の正しい理解が必要となってくる。「昼八つ前」がどの時間帯を指しているのか,あらためて検証することが求められている。
 さらには日記という史料そのものの再評価である。誰が書いた日記かにもよるが,統治体制や社会構造を理解するという観点からは,江戸時代の個人の日記はそれほど重要な史料としては扱われてこなかった。効率よく必要な情報を得られる史料は他にあるからだ。県史や市町村史などで活字化されることは少なく,大量にありながら,どちらかといえば持て余されてきた史料ともいえる。しかし,今の私には各地の日記史料は宝の山に見える。日記をめくって震動記録を収集していると,地震以外の事件や当時の人々の日常などについても思わぬ収穫を得ることがある。地震研究は埋もれていた史料をよみがえらせる可能性があると思う。
 地震学も歴史学も時間と空間を対象とした学問である。協業できる土壌は存在しているし,実際,歴史地震研究にはすでに多くの蓄積がある。ただしこれまで歴史地震研究と一般の歴史研究がクロスすることはあまりなく,相互の批判が行われることも少なかった。史料による地震研究のおもしろさを一般の歴史研究者に伝えることも,始まったプロジェクトの課題であると感じている。

 

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