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岩波書店のWEBマガジン「たねをまく」

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『科学』6月号

 
 小誌は、科学界と社会を結ぶ雑誌として1931年に石原純、寺田寅彦らによって創刊されて以来、科学の進展と、科学と社会の間で起こるさまざまな問題を見つめてまいりました。
 今回の大災害は、本当に言葉を超えた事態に思います。将来の時点から現在の転回点を振り返るときに、本誌が時代の証言を記録しえているように、企画活動に取り組んで参りたいと存じます。
 
 
〇定価(本体1333円+税)
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◇目次◇
特集 黒潮の恵み
572 ウナギとマグロとイワシ:黒潮がつくりだす環境 ……木村伸吾
577 黒潮が日本の魚類に与える影響……篠原現人
582 黒潮がつくったサンゴの楽園:沖縄……菅 浩伸
588 黒潮:その成り立ち……花輪公雄
598 黒潮大蛇行と予測……美山 透
601 黒潮10年変動と漁獲量との対応……伊藤進一
604 黒潮と対峙した3万年前の人類 ――航海プロジェクトから……海部陽介
610 最終氷期の黒潮の復元……久保田好美
616 見直される琉球列島の陸橋化……横山祐典・藤田祐樹・太田英利
 
563 [座談会]地震予測と「第4の科学」――データに駆動された新たなアプローチへ(後編) ……尾池和夫・金田義行・北川源四郎・鳥海光弘・樋口知之
635 健康影響を捉えるための曝露評価とは(2) ――曝露の誤分類・ITT分析・操作変数・自然の実験……津田敏秀
540 幻獣遊学6 天空から舞い降りる象……大村次郷
545 広辞苑を3倍楽しむ99 ゲノム編集……佐々木えりか
546 これは「復興」ですか?15 夜ノ森の桜……豊田直巳
570 ちびっこチンパンジーと仲間たち198 温泉に入るサルやカモシカ……松沢哲郎
625 3.11以後の科学リテラシー66……牧野淳一郎
629 アルキメデスからの贈り物19 黄金アルベロス……奥村 博
630 科学者の社会的責任5……藤垣裕子
645 科学技術・イノベーション政策のために7 デュアルユース・テクノロジーをめぐって……小林信一
 
[科学通信]
551 〈リレーエッセイ〉地球を俯瞰する自然地理学 動く砂丘の分布から沙漠化の「閾値」を探る……大森博雄
553 731部隊(石井機関)の博士論文とその審査……常石敬一
556 〈コラム〉東京電力原発事故の情報公開 敷地内の調査を拒みつづける東京電力……木野龍逸
558 甲状腺がんデータの分析結果と疫学理論――2018年3月5日第30回福島県「県民健康調査」検討委員会発表より ……津田敏秀・宮野由美子
562 訂正
 
597 50年前には
603 75年前には
628 次号予告
 
●今月の表紙掲載記事について
「責任ある研究とイノベーション」概念の展開→連載「科学者の社会的責任」参照
 
表紙デザイン=佐藤篤司
本文イラスト=山下正人 飯箸 薫
 
◇巻頭エッセイ◇

日本におけるデータサイエンス教育
  竹村彰通(たけむら あきみち 滋賀大学データサイエンス学部長)

 
 筆者は本年4月に岩波新書『データサイエンス入門』を上梓した。データサイエンスについての関心が高いためと思われるが,幸い初期の売れ行きは好調である。この新書では,データサイエンスの重要性や有用性を強調するのみならず,データを扱う時の注意点,例えばデータのもつバイアスや倫理的な問題点についても扱った。それはデータサイエンスや特に最近のAIに関する報道が,やや期待先行気味でバランスを欠くと感じているからである。
 この本を書くきっかけは,筆者が滋賀大学に日本初のデータサイエンス学部を開設する作業に関わったことである。滋賀大学では2017年4月に定員100名のデータサイエンス学部を開設した。私自身はすでに3年近く新学部開設および運営の仕事に関わってきたため,データサイエンスの入門に関する本を書くのにふさわしい著者と思われたようである。私自身は学部の設置に際して,いわば新学部の宣伝マンとしてデータサイエンスの有用性や将来性を強調する立場であったから,新書の中でもデータサイエンスの重要性を強調する材料を数多く提示している。しかし,上にも述べたように,あまり一方的な内容とならないように配慮したつもりである。
 日本がデータサイエンス分野で遅れており,この分野の教育が重要であることは事実である。滋賀大学のデータサイエンス学部は2年目にはいり,また滋賀大学に1年遅れて横浜市立大学にもデータサイエンス学部ができて,日本でもようやくデータサイエンティストの組織的育成がはじまった。しかしながら,データサイエンティストは日本ではまだアメリカなどと比較して圧倒的に少ないし,日本ではデータにもとづく意思決定を重視する文化も根付いていない。アメリカでは統計学あるいは生物統計学の学士号授与数が2016年で3000名程度となっているが,日本では滋賀大学と横浜市立大学をあわせても4年後に160名となるに過ぎない。少子化の中で,日本の大学はなかなか新たな分野に投資することもままならず,滋賀大学,横浜市立大学に続く本格的なデータサイエンス学部の話もまだ聞こえてこない状況である。データサイエンスを取り巻く状況の変化も激しい。インターネット上の巨大企業としての位置を確立していたと考えられていたFacebookは,個人情報の流出事件を受けて急にその将来に暗雲が立ち込めている。
 データは21世紀の石油ともいわれており,データを制するものが世界を制するという議論もされている。ただしFacebookの例に見られるように,データの扱い方についての信頼を失うと,急激に状況が変化し得る。今後もデータサイエンスの動向からは目が離せない。
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