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【追悼 大江健三郎さん】筒井康隆 大江さんからの手紙[『図書』2023年11月号 巻頭エッセイ]

大江さんからの手紙

 

 大江さんのことについて書けという依頼を受けた時は、もはや書き尽くした感があったものの、大江さんからは沢山の手紙を頂いているからそれを読み返せばなんとかなるだろうと多寡をくくっていた。ところが締切りが迫っているというメールを貰ってはじめて、その手紙がまったくないことに気づいた。たしかに、「大江さんからの手紙」と大書した封筒に入れたのだが、その封筒がどこへ行ったかわからないのである。大切にしているものほどどこかへ行くという見本みたいなものだ。バカですね。あはは。

 もう何度か書いたと思うが、そのお手紙は小生の手紙への返信であったり、小生の作品への批評であったりした。記憶している文章では「小錦はタンク・タンクローに似ています」とかいったユーモアであったり、大江さんの『水死』という作品に対して「真犯人が書かれていない」という小生の指摘に「それは恐らくおばあちゃんだと思います」という仰天するような返事が来たりした。いちばん最近に来たはがきが一枚だけある。二〇一一年に頂いたもので、小生の『聖痕』への批評である。ここでは丸谷才一氏を追悼しながら小生と丸谷さんを市民小説の作家と捉えている。

 その丸谷さんからも沢山お手紙を頂いていて、これはすべてあるようだ。だから丸谷さんについてはいくらでも書けそうだし、その中に大江さんへの言及があるかもしれないのだが、もはやそれを読み返す根気もない。ひたすらお詫びするばかりである。

(つつい やすたか・作家)


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