【特別公開】フェイクニュースに騙されないために(梅澤貴典『ネット情報におぼれない学び方』より)
「確かな情報って何?」「情報リテラシーって何?」等の問いや具体例に沿って新しい時代の学びに即したネットや図書館での情報の探し方・使い方、更にはアウトプットの仕方を図書館司書の立場からアドバイス。
図書館司書の梅澤貴典さんの著書『ネット情報におぼれない学び方』(岩波ジュニア新書)より、昨今問題視されている「フェイクニュース」に関する箇所を抜粋して掲載します。
フェイクニュースに騙されないために
みなさんは、日々のニュースをどのように入手していますか。ネットでは、新聞社やテレビ局だけではなく、匿名の個人でも「ニュース」を発信できてしまいます。そこには、不確かな情報だけではなく、世論を誘導するといった目的で意図的に作られた事実と異なる情報も多く含まれます。ここからは、近ごろよく聞く「フェイクニュース」について考えていきます。
まずは、世論が誘導された有名な例を紹介します。覚えている人もいるかもしれませんね。2016年のアメリカ大統領選挙のさいに、「ローマ教皇がトランプ氏を支持」という虚偽の情報が流れました。この情報を受けとった人の中には、真実だと思い込んで拡散に加担してしまった人が多くいました。
では、この情報を最初に発信した人はどうでしょう。少なくとも、誰かから情報のバトンを受け取ったのではありません。つまり、どこにも根拠がない情報を創作したのですから、自分でも嘘だと分かって発信したと言えます。「デマ」とは、本来このように意図的に流す虚偽の情報を指し、単に根拠が不明なうわさは「流言」と呼びます。
しかも、困ったことにネット上では、真実より虚偽のほうが6倍も速く広く伝わるというマサチューセッツ工科大学による研究成果があります(“Thespread of true and false news online,” SoroushVosoughi, Deb Roy, Sinan Aral, Science 359(6380), 9 Mar 2018, pp. 1146─1151)。
みなさんは発信されたニュースがフェイクかそうでないかを疑い、フェイクと証明するために根拠を調べて、事実はこうだ、と反論できるでしょうか? 先の件も「ローマ教皇の国際的な立場等を考えてみれば、そもそもアメリカの大統領選挙にコメントすること自体が疑わしいな」と気づくことができます。そうすれば、ローマ教皇の公式発言などの一次情報を集めて、論理的に真偽を検証できるはずです。
このような検証が可能であるにもかかわらず、なぜフェイクニュースは広く拡散し、信じられてしまうのでしょうか。そこには、人々の感情が影響しています。
みなさんは「ポストトゥルース」という言葉をご存知でしょうか。『デジタル大辞泉』(小学館)によれば、「世論の形成において、客観的事実よりも感情的・個人的な意見のほうがより強い影響力をもつこと。受け入れがたい真実よりも個人の信念に合う虚偽が選択される状況をいう」とあります。
このような傾向が進み、人々が事実の検証を軽んじて「感情任せ」に偏ってしまうと、誤った判断や、いわれなき誹謗中傷を引き起こす危険が高まります。確かな情報リテラシーを身につけることによって、こうした悪しき風潮には歯止めをかけなければなりません。
フェイクニュースに騙されないためには、自分のところに集まってきた情報をまずは疑ってみることです。SNS やネットでなんとなく見ているニュースや情報が、過去の検索や閲覧の履歴に紐づけされて、知らず知らずのうちに「自分の考えに味方してくれる情報」や「自分の意見の補強材料となるデータ」ばかりをAI が集め、それを閲覧している可能性があるからです。あえて正反対の立場に立って情報を集め、自分が固執していた考えを打ち消す証拠やデータがないかなども探してみると、面白い発見があるかもしれません。
なぜなら私たちの中には、「こうであってほしい」という思いに囚われ、その根拠を否定する情報にはなかなか目が向かなくなる性質があるからです。この心理は「確証バイアス」と呼ばれます。『デジタル大辞泉』によれば「自分の願望や信念を裏付ける情報を重視・選択し、これに反証する情報を軽視・排除する心的傾向」とあります。自分の思い込みによって視野が狭くなると、事実(確かな情報の積み重ね)よりも感情によって判断してしまいがちになるということです。
情報を中立的に比較する訓練に最適なトレーニングの一つが、ニュースや記事の読み比べです。一つのニュースを取り上げ、それがどのように書かれているか、複数の媒体をつかって比べてみてください。
著名な評論家のコメントを取り上げ、対立する考えを探して比較してみるのもいいでしょう。次に、それぞれの情報の発信者の意図や目的をふまえ、確かな根拠があるか、論理的に間違っていないかを見定め、どちらが正しいかを、可能な限り中立的に判断するようにしてみましょう。
もう一つおすすめなのが、脳内ディベート(討論)です。たとえば「消費税は不要である(または下げるべき)」とあなたが考えているのなら、「消費税は必要である(または上げるべき)」という真逆の仮説をたて、さまざまな情報源に触れてみてください。結果はどうでしょう。これまでのあなたの考えと、その反対の立場との間には、どんな溝があるでしょう。当初の考えだけではなく、両方についてもっともっと深く調べてみたくなりませんか。
印象は操作される
次に、情報を発信する側にたって「確かな情報とは何か」を考えていきましょう。
発信者の立場はさまざまで、個人もいれば、企業や団体もあります。それぞれがブログ・SNS・ウェブサイトなどから「見せたい情報」を発信しています。個人が発信者の場合は、「いいね!」がたくさん欲しいなど、自分を認めてもらうこと(承認欲求を満たす)を目的とするケースが多く見受けられます。インフルエンサーになって注目を浴びたい、フォロワーがたくさんほしい、といったところでしょう。またフォロワーが多くいれば、広告料が入るなど、別の利益も発信者に生じます。
いっぽう、企業や団体が発信する宣伝などの目的を持った情報は、検索されやすいようにキーワードに工夫が施されたり、実は広告なのに、まるでニュースのように見せかけて、閲覧者である私たちに届けられる場合があります。
どちらも、情報の印象が良くなるように工夫され、より多く見てもらえるように作られています。つまり発信者は、「それぞれの目的のために都合よく情報を見せている」とも言えます。前にも書きましたが、個人が発信するものの多くは、校閲などチェックの過程を経ずに発信できてしまいます。そのため、誤りや偏りが生じやすいと言えます。
反対に企業や団体の発信する情報ならば、少なくとも社内の複数の眼を通って発信されているでしょうから、誤りや偏りは生じにくいと言えます。しかし、だからといって、すべて信じられるかと言えば、そうとも限りません。自社にとって都合の悪い情報を隠したり、データを改ざんして発表したりといったことは、これまでもなされてきたことです。読者の中には、そうした情報を目にした人もいるのではないでしょうか。
そのためネット情報は、個人のものであっても、企業や団体が発信しているものであっても「どんな目的で発信されているんだろう?」「これが広まることで、誰がどんな得をするんだろう?」といった視点を意識して、読んでみるようにしてください。何となく情報を受け取っているだけだと、ついつい必要のない買い物をしてしまったり、大勢の意見に引っ張られて嘘の情報を拡散してしまったりするなど、知らず知らずのうちに誰かの思惑に動かされてしまうことも起こりえます。
「向こうからやってくる情報」は、誰かの手で加工されたもの(二次情報)だということを、まずは肝に銘じておきましょう。