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養老孟司 [表紙に寄せて]我流「風の谷」[『図書』2026年1月号より]

 この絵は宮﨑駿監督の『風の谷のナウシカ』のイメージ・ボードだそうである。つまり作品の具体的なイメージをあらかじめ描いたもので、確か黒澤明の「絵コンテ」というのをどこかで見たか、聞いたかした覚えがある。「風の谷」は宮﨑さんの頭のなかにしかないのだから、こういう絵がないと、協力者全員が困るはずである。あっても、それなりに困るのでないかと疑う。これが「風の谷」だといわれれば、いかにも、と思うしかない。ここまで書いて気が付いたが、ひょっとすると私は『風の谷のナウシカ』という作品を見ていない。エッ。宮﨑作品は家族全員で映画館で見るという取り決めを我が家では作っていたので、『千と千尋の神隠し』も『もののけ姫』も家族全員で見た。ところが『風の谷』についてはその記憶がない。間接的にはあまりに何度も話題になったので、見たつもりになったのだと思う。ジブリの作品自体は、DVDを含めて何かの形で必ず手に入れて見ているので、まさか『ナウシカ』を見ていないとは思わなかった。私自身は去年の11月で満88歳、米寿を迎えているので、間違った思い込みなどはすべて年齢のせいにすることにしている。作品を見ないで、自分の頭の中の「風の谷」をあくまでも私流のイメージにとどめたままにしておくか、改めて作品を見て一般的な「風の谷」に頭の中を変更しようか、迷っているところである。松尾芭蕉の「古池や」をそう文字通り説明するか、「俳句だ」と概念的に説明するかの違いみたいもので、私自身は年齢とともに「古池」派に移ってきている。概念的説明は伝えやすいが、面白くない。宮﨑作品に見るように、イメージは生きるが、説明は死ぬのである。

(ようろう たけし・解剖学)


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