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大河原 愛「雲と空のはざまで」 『図書』2021年5月

 
桐野夏生著『日没』
四六・上製・カバー・332頁 定価 1,980円 
 

  桐野夏生さんの小説『日没』の装画に、私の作品「深層の森」を選んで頂いた。「深層の森」というタイトルは、五年以上前、私が社会で強い生きづらさを感じ、出口の見えない闇の中で光を探し求めていた時、ふと浮かんだ言葉だった。私の二人の息子は母子分離不安症だ。その為、私がいないと小学校の教室に居られない。本来なら親がいるはずのない場所でここにいていいのかという不安感と、制作したいという欲望と闘いながら、今も毎日教室脇の廊下で子供に付き添い続けている。

 『日没』はそんな風に先の見えない日々を過ごしている私にとって、学校や社会で感じる閉塞感を巧みに表現してくれた物語だった。ラストシーンで崖に向かって進む主人公の背中と、私が描いた作品中の人物の背中、これらが見事にシンクロし、感動と同時に寒気を覚えたのを今も覚えている。

 例えば私はヌードをよく描くが、ポルノと芸術としてのエロスの境界を明確に提示することは難しい。社会の中に暗黙的に漂う境界線を見極めることは、まるで雲と空の境界を定義するくらい不可能だろう。絵でいえば、性器が卑猥である、ヌードはタブーであると国家権力が決めたなら、そのようなものを描く芸術家は犯罪者となってしまう。人体の美や崇高さを自由に表現したいと思うことは罪なのか?

 桐野夏生さんの描き出す光と闇は、私たちが常日頃、心の奥底に閉じ込めて目を逸らしている何かを呼び起こす。だからこそ、同じような事がいつか起きてしまうのではないかと、私達を不安にさせるのだろう。
 (おおかわら あい・美術家) 
 
 

 

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