『科学』2026年2月号 特集「ノーベル賞坂口氏・北川氏に聞く」|巻頭エッセイ『智の広がりを喜ぶ──坂口先生と北川先生のノーベル賞ご受賞に寄せて』大隅良典
◇目次◇
【特集】ノーベル賞 坂口氏・北川氏に聞く
〈対談〉末梢性免疫寛容の発見から自己免疫病の治療へ……坂口志文・河本 宏
〈インタビュー〉学術の源流からイノベーションは生まれる……北川 進
[ノーベル生理学・医学賞2025]
制御性T細胞による末梢性免疫寛容の仕組みの解明2──免疫学の歴史における20世紀最後の大発見……河本 宏・西村有史
制御性T細胞の“マスター転写因子” Foxp3の発見とそのインパクト……堀 昌平
脳を守る制御性T細胞……伊藤美菜子・吉村昭彦
坂口イズム……伊藤能永
ストックホルムで坂口先生の授賞式に参加して……山崎小百合
幸運のpay it forward……前田優香
[ノーベル化学賞2025]
金属-有機構造体MOFがもたらしたものと現在地……堀毛悟史
ナノ空間での高分子化学……植村卓史
気体を抱えて,世界を変えた材料──「最初の多孔性金属錯体」にまつわる30年史……坂本裕俊
[巻頭言]
智の広がりを喜ぶ──坂口先生と北川先生のノーベル賞ご受賞に寄せて……大隅良典
[解説]
オスヤドカリのメス化を誘導するフクロムシの繁殖戦略……梶本麻未
[連載]
因果をめぐる7の視点2 ビッグデータ時代のスモールデータ──説明から納得,そして活用へ……樋口博之
ウイルス学130年の歩み8 インフルエンザウイルス,デングウイルス,コロナウイルス……山内一也
カミオカンデはいかに生まれたのか──基礎科学の曲がり角に立って5 巨大な光検出器で仕掛けた「ゲリラ戦」……古川雅子
野球の認知脳科学9 「わかっていても打てない」とは?……柏野牧夫
[フォーラム]
南海トラフ巨大地震の長期評価を読み解く──改訂された評価の意味と今後の課題……平田 直
次号予告
表紙画像=(上)伊藤美菜子・吉村昭彦:「脳を守る制御性T細胞」図1より,(下)植村卓史:「ナノ空間での高分子化学」図3より
表紙デザイン=佐藤篤司
このたびノーベル賞を受賞された坂口志文先生と北川進先生に心よりお祝い申し上げます。途絶えるかと見えた日本人の自然科学分野の受賞,しかも今回はお二人の同時受賞とあって,テレビや新聞などで,連日のようにノーベル賞に関する報道がなされました。以前よりも研究の内容に関する丁寧な解説もなされ,日本中を明るくするニュースとして,また科学に対する関心が広がる機会となりました。とりわけ基礎研究に目を向けることが難しくなっている今の若者,次の世代を担う子どもたちにとって大きな希望の光となったに違いありません。
お二人に共通することは,決して恵まれた研究環境が一貫して用意されていたとは言えないこと,国際学界で認められない時期にも自分を信じて基礎研究を続けられた成果であることです。ノーベル賞受賞に至った研究の多くは,一つの謎解きに始まって,それが新たな謎を提示するといった長期間の研究の継続を必要とします。お二人が度々の会見で指摘されたことは研究の継続の重要性,そのための研究費の持続的な支援が望まれること,さらに最近,研究課題の応用志向が高くなってきている問題です。お二人のお仕事は,今ではそれぞれ応用への期待が大きく広がっていますが,そのような展開を確信して研究を始められた訳ではないと思います。研究の原点は,まだわかっていない「謎」とその本質を知りたいという「知的好奇心」であると思うのです。
お二人共,ノーベルウィークの多忙なスケジュールを終えられて今はホッとなさっていることでしょう。授賞式,晩餐会,ノーベルレクチャー,演奏会などの次々と繰り広げられる公式行事だけでも,大変なハードスケジュールです。それらの行事を十分楽しまれたご様子で,なによりでした。私にとってはそれらに加えて,ノーベル財団に保存されている分厚いノートに,教科書で学んだ偉大な先人達,過去の受賞者のサインを見ながら,自分の名前を緊張しながら記した時のこと,寒い中,雪をかぶったノーベルの墓を訪問した時のことなどが,10年近くたった今も忘れられない思い出となっています。
お二人が受賞の喜びとともに,日本の基礎研究の現状に関して度々意見を述べられたのも,多くの人に響いたことでしょう。次の世代の研究者が精神的に余裕をもって未知の問題に挑戦して研究を進められ,今後も次々とノーベル賞受賞者が続く日本であってほしいと願っています。そのためには,研究費の抜本的拡大,研究環境の整備などが緊急の課題です。情報が溢れる現在,智の広がりを素直に喜び,真理を大切にする社会こそが,人類の未来を左右する大切な方向性を示しているのだということをお二人の受賞で改めて思いました。




