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『図書』2023年12月号 目次 【巻頭エッセイ】柄谷行人「世界戦争の時代に思う」

◇目次◇
世界戦争の時代に思う……柄谷行人
コロナ・ライオン・ウクライナ……さだまさし
〈座談会〉ひらかれた古代史へ……吉村武彦/川尻秋生/松木武彦/清水克行
ケインズ生誕一四〇年に想う……赤木昭夫
水俣、石牟礼さんへの旅……梯久美子
島田虔次『朱子学と陽明学』の漢訳版……三浦國雄
落語界における素数……橘蓮二
ポトツキの『トルコ・エジプト紀行』……畑 浩一郎
本をひらくということ……小林エリカ
みんなモモだった……志賀理江子
ささやかなゼイタク……近藤ようこ
少数派と共存する政党政治……前田健太郎
岡倉覚三の残したものと一九〇〇年パリ万博……新関公子
生きた激流、リョコウバト……川端裕人
E・H・カーと女性たち……近藤和彦
こぼればなし
一二月の新刊案内
(表紙=杉本博司) 
 
 
◇読む人・書く人・作る人◇
世界戦争の時代に思う──『帝国の構造』文庫化にあたって
柄谷行人
 

 われわれは今、世界戦争の危機のさなかにある。それはいわば、国家と資本の「魔力」が前景化してきた状態である。このような「力」は、ホッブズが「リヴァイアサン」と呼び、マルクスが「物神」と呼んだような、人間と人間の交換から生じた観念的な力である。いずれも、人間が考案したようなものではない。だから、思い通りにコントロールすることも、廃棄することもできない。

 かつてマルクス主義者は、国家の力によって資本物神を抑え込めば、まもなく国家も消滅するだろう、と考えた。ところがそうはいかなかった。結局、国家が強化されたばかりか、資本も存続する結果に終わったのである。以来、マルクス主義も否認され、国家・資本は人間が好んで採用したものであり、今後も適切な舵取りさえすれば人間を利する、と信じられてきた。

 現実に、資本も国家も暴威を振るっているのに、人びとは、自分たちの力で何とかできるものだと信じ続けている。そして、AIの発展によって、また宇宙開発のような新奇なビジネスによって、世界を変えることができる、というような「生産様式論」に終始している。しかし、生産様式が変わっても、国家も資本も消えない。現に、今世界戦争が起こっている。私がこのことを予感したのは、ソ連邦崩壊後であった。その時期、「歴史の終焉」が語られたが、私は異議を唱え、二〇世紀の末に「交換様式論」を提起した。『帝国の構造』は、そこから国家の力を解明したものである。

(からたに こうじん・哲学者)

 
◇こぼればなし◇

〇 早いもので今年も師走です。皆様にとって、どのような一年になったでしょうか。ロシア・ウクライナ戦争の終わりも見えないなか、パレスチナ自治区ガザ地区ではイスラエル軍による空爆や戦闘が続き、多くの幼い命も犠牲になっています。これからの時代をつくっていく子どもたちに、どんな本を手渡していけばよいのか。戦後八年目の一二月に創刊した絵本シリーズ「岩波の子どもの本」がちょうど七〇年を迎えたいま、改めて考えさせられます。

〇 三年先輩の岩波少年文庫より、さらに対象年齢を下げたこのシリーズ。創刊記念の小誌一九五三年一一月特集号「子どもの本」を開きますと、先輩諸氏の並々ならぬ覚悟がひしひしと伝わってくるのです。「おさない子どもが、最初に手にする本ほど、だいじな本はないとも言えましょう。…その本の如何によって、その子が、将来、本を愛する人になるかどうかも、ある点まで決定するからです」(「子どもの本発刊について」。以下、引用は同号より。原文は旧漢字)

〇 山本有三は、新シリーズの話を編集部の吉野源三郎、石井桃子両氏から聞き、「十七、八年まえに自分が少国民文庫十六巻を世に送りだした時のことを改めて思い出し」ました。かつて文庫の編集を思い立ったのは、「子どもに与える書物がどれほど重大なものであるかということを痛感したからこそ」と(「新しく出る子どもの本について」)

〇 一方、同じ号で志賀直哉が幼時の読書体験を回顧したエッセイ「幼い頃」の末尾の一節。「人生は厳しいのだから、或る程度の悪いことも知るだけは知つてゐた方がいい。型通りの善良さが一番あぶなつかしい。しかし、小さい時にいいものを見ておけば、悪を判断するのに役に立つのは確かだ」。なるほど味わい深い言葉です。

〇 「岩波の子どもの本」新刊として、この秋に『やまをとぶ』(きくちちき 文・絵)、『きつねがはしる──チェコのわらべうた』(ヨゼフ・ラダ 絵、木村有子 編訳)が仲間入りし、二月には『こどもべやのよる』(出久根育 文・絵)が加わります。

〇 二〇二三年度の文化勲章受章者として、岩井克人さん(経済学)、塩野七生さん(作家)、野村万作さん(能楽師)らが発表されました。

〇 受賞報告です。二〇二三年度大川出版賞を『拡散モデル』(岡野原大輔著)、第四四回石橋湛山賞を岩波新書『さらば、男性政治』(三浦まり著)、第七七回毎日出版文化賞(自然科学部門)を岩波新書『まちがえる脳』(櫻井芳雄著)、同賞企画部門を『昭和天皇拝謁記』(全七巻)が受けました。

〇 小誌は本号をもって九〇〇号を数えます。「真」とは何かに肉薄する杉本博司さんの表紙連載は本号で終了となり、一月号からは加藤静允さんのドローイングが表紙を飾ります。近藤和彦さんの「『歴史とは何か』の人びと」、リレーエッセイ「本をひらいた時」、「『モモ』がうまれて50年」もそれぞれ最終回。ご愛読ありがとうございました。


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