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『図書』2024年3月号 目次 【巻頭エッセイ】筒井淳也「「社会」の暗闇に小さな光を当てる」

◇目次◇
「社会」の暗闇に小さな光を当てる……筒井淳也
沖縄の大江健三郎……池澤夏樹
「最後の小説」に向けて……阿部賢一
死者とともに生きよ……原広司
〈鼎談〉現代に生きる仏教と仏教学……大谷栄一・菊地大樹・末木文美士
父の友人たち (下)……松本礼二
ルーマニア、あまりに複雑な希望……済東鉄腸
見ることの始まりへ……竹内万里子
東京美術学校の終焉から東京芸術大学へ……新関公子
ルーヴル殺人事件……西尾哲夫
谷中長安寺「狩野芳崖翁碑」……金文京
リアリズムと勢力均衡の原理……前田健太郎
レオポルドとリョコウバト……川端裕人
こぼればなし
三月の新刊案内
(表紙=加藤静允)
 
 
◇読む人・書く人・作る人◇
「社会」の暗闇に小さな光を当てる
筒井淳也
 

 社会学の講座あるいはリーディングスのシリーズは、これまで私が知る限り五回出版されてきた。今回岩波書店から出版が始まった『岩波講座 社会学』だが、前回の講座は一九九五年からのもので、そこから実に二五年以上経っている。

 二五年も経てば、社会学は変わることを求められる。なぜなら社会も変わるからだ。自然科学は、時代を通じてほぼ同じ対象を追究する。物体の運動や化学反応といった物理現象は、百年前でも今でも同じだと想定できる。しかし私たちの住む社会は刻一刻と変化している。ならば、社会学もその変化に応じて問いや問題意識、そして方法を変化させる必要がある。もちろん、二五年前から変わらず問題であり続けているものもある。変わることは対象からの要請であって、目的ではない。

 現代社会とは、シンプルに表現すれば、「複雑かつ多面的で、見通しにくい」社会だ。社会について知ったつもりでいても、本講座に所収の論文をいくつかランダムに拾い読みするたびに、「こんな問題があったのか」と気づくはずだ。

 社会学の論文を読むということは、完成された認識に近づくために知識のブロックを積み重ねる作業とは程遠い。それはむしろ、大きな暗闇のほんの一部に光を当てて覗き見ることに近い。今回の講座には一三〇本以上の論文が収められる予定だが、だとすれば一三〇以上の小さな光が「社会」に対して当てられるというわけだ。社会の全容を掴むことはできないが、私たちは社会について知ることをやめることはできない。

(つつい じゅんや・社会学)

 
◇こぼればなし◇

〇 小欄執筆時点で能登半島地震から四週間が経ちました。亡くなられた方は石川県内で二三六人(うち災害関連死疑いの方が一五人)。能登地方を中心に四万三〇〇〇棟以上の住宅に被害が確認され、四万二〇〇〇戸以上のお宅で断水が続いているということです(以上、一月二九日現在)。被災された方々におかれては避難生活の長期化が避けられないとの観測もあるなか、心身の健康維持のため、医療、保健、福祉等のサポートの強化が求められます。

〇 「君自身が心から感じたことや、しみじみと心を動かされたことを、くれぐれも大切にしなくてはいけない」。これは、吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)で、コペル君に向けて「おじさん」が書き継ぐノートに出てくる一節です。この言葉と、作家・古谷田奈月さんのエッセイ「スクリーンの前の読書会――映画『君たちはどう生きるか』をめぐって」(『世界』二〇二三年一〇月号掲載)に導かれ、小社ではバーチャル読書会「♯君たちはどう読むか」なるキャンペーンを企画し、一月から開催しています。

〇 本キャンペーンは、小説や、宮﨑駿監督の映画「君たちはどう生きるか」をめぐり、ハッシュタグ「♯君たちはどう読むか」を含む投稿をXとインスタグラムの公式SNSにお寄せいただくことで誰でも参加できる「大読書会」です。本および映画について、はたまた「どう生きるか」について、小誌読者の皆様からのコメントをお待ちしています。

〇 読書会にはテーマを設けていますが、その第一弾は、「なぜ眞人は『君たちはどう生きるか』を読んで泣いたのだろうか?」です。映画のなかで、主人公の眞人はこの本と出会い、読み始めるやいなや大粒の涙をこぼします。眞人にいったい何が起きたのでしょう。小説を実際に繙(ひもと)き、ご自身でその理由を探ってみませんか。

〇 映画の主題歌である米津玄師さんの「地球儀」CDジャケットのカットとお揃いのカバーがかかった特別カバー版岩波文庫『君たちはどう生きるか』も、全国のご協力書店でお求めいただけます。

〇 NHK大河ドラマ「光る君へ」を毎週楽しみにされている方も多いでしょう。小生もその一人です。十二単はじめ得も言われぬ華麗な衣装に息を飲み、平安貴族の織りなす人間ドラマに魅了されながら、歴史や登場人物、文物についても俄然興味が湧いてきます。

〇 ドラマをより深く楽しむうえで、手に取りやすい格好の手引きとなるのが、源氏物語研究の第一人者である高木和子さんによる『源氏物語入門』(岩波ジュニア新書)です。同じジュニア新書の『平安のステキな!女性作家たち』(川村裕子著、早川圭子絵)も好評をいただいています。岩波文庫『源氏物語』全九冊美装ケースセットもぜひ、この機会に。

〇 西洋と日本の出会いと、そこにあった葛藤を描く新関公子さんの連載「東京美術学校物語」は本号で最終回となります。ご愛読ありがとうございました。


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