川内有緒 [表紙に寄せて]ネコバスに間に合うか[『図書』2026年7月号より]

トラックが田舎道を走っていく。荷台には、たくさんの家具と仲の良い姉妹がぎゅう詰めになって乗っている。都会から引っ越してきたらしく、姉妹は埃だらけの古民家の中を走り回り、家の前を流れる川を覗き込む。言わずとしれた『となりのトトロ』の冒頭である。
『宮﨑駿イメージボード全集』によれば、『天空の城ラピュタ』が大ヒットした後、宮崎駿さんに期待されたのは、もう一度冒険活劇を生み出すことだった。しかし、高畑勲さんが「だとしたら、宮さんはいつになったら『トトロ』を作れるんでしょうか……」と発言し、ひそかに温めていた「トトロ」構想が動き出した。
つい先日、人生10回目くらいになる「トトロ」を友人宅で鑑賞した。最後に見てから8年、その間ずっと幼い子を育ててきた。そのせいだろう、見方が親目線になってしまい、ヒヤヒヤする場面の連続である。ぐらぐらする柱、欄干のない橋、大人の目の届かないところで緑のトンネルに入っていくメイ。ひゃあ、危ないよ! ついに穴に落ちた先で出会ったのがあの不思議な生き物だった。
月夜、トトロは姉妹を連れて空高く舞い上がる。すると、それまで長女らしく振る舞っていたサツキも、興奮で叫んだ。「ねえ、見て! 私たち、風になってる!」。
あー、そっか! やっと、わかった。映画『となりのトトロ』とは、メイちゃん視点の冒険活劇で、お姉ちゃんや我々を冒険に連れていく話なのね。好奇心があふれ、自分の心に忠実なメイ。私たちは誰もが「メイ」だった頃がある。路地も川も押し入れも探検の地だったあの頃。トウモロコシひとつを胸に抱えて一歩踏み出せば、ネコバスにだって乗れるはず。親になった今からでも、もう一度メイになれるかな。まだ間に合う、と思いたい。
(かわうち ありお・ノンフィクション作家)




