コロナ禍でさらに読まれるようになった古典『ペスト』。岩波文庫でも、今年4月に新訳を刊行いたしました。71年ぶりとなった新訳、その訳者の三野博司さんは、国際カミュ学会の副会長で、長年の研究に裏打ちされた正確な訳文に詳しい注解が好評です。
『ペスト』が刊行された1947年に、カミュは、「ペストの医師たちへの勧告」という短い文章も発表しています。この「勧告」は、昨年4月、外出禁止令が出されたフランスで、無料公開され、話題になりました。当時のパリの様子を目にした渡辺惟央さん(パリ第8大学博士課程)が、今回この小文を新訳し、不思議なテキストについての解題を寄せてくれました。
『図書』2021年8月号には、フランスでの『ペスト』の受容、そして『ペスト』を通してカミュは何を書こうとしたのかに迫る、渡辺さんのエッセイ「カミュの『ペスト』をめぐって:呼びかけのジレンマ」も載っています(この「たねをまく」でもお読みいただけます)。あわせて、ぜひご覧ください。
渡辺惟央(わたなべ・いお)
東京大学博士課程・パリ第8大学博士課程。アルベール・カミュを中心に、20世紀フランス文学・思想を研究。論文に、« Camus et Brice Parain : un héritage des années 30 »(Présence d’Albert Camus (12), 2020)、「シシュポスを殺すことはできるか—ブランショのカミュ論における「弁証法」」(『Résonances』、11号、2020年)など。共訳に、西山雄二編『いま言葉で息をするために—ウイルス時代の人文知』(勁草書房、2021年8月刊行予定)がある。