web岩波 たねをまく

岩波書店のWEBマガジン「たねをまく」

MENU

『図書』2024年2月号 目次 【巻頭エッセイ】ジョルダン・サンド「式年造替遷宮から「物の歴史」を読み解く」

◇目次◇
式年造替遷宮から「物の歴史」を読み解く……ジョルダン・サンド
ヘルメス神が導く名著選び……秋満吉彦
谷崎潤一郎の書簡と〝幻の人魚図〟……前田恭二
証言する木……与那原恵
父の友人たち (上)……松本礼二
ガザをめぐる雪合戦……長坂道子
筒井康隆さんの預言……山田裕樹
ポトツキの『アストラハン紀行』……畑浩一郎
小栗判官・照手姫……近藤ようこ
コルベール卿のスパイ?……西尾哲夫
谷中本行寺「磬材之記」……金文京
信頼を生み出す市民社会……前田健太郎
和田英作校長時代とその周辺……新関公子
リョコウバトの聖地巡礼 ……川端裕人
こぼればなし
二月の新刊案内
(表紙=加藤静允) 
 
 
◇読む人・書く人・作る人◇
式年造替遷宮から「物の歴史」を読み解く
ジョルダン・サンド
 

 数年前、本誌に伊勢神宮の式年遷宮について連載をした。遷宮の意味を解く言説は意外に新しく、一九世紀末から日本と西洋の対話のなかで生まれたものだ。そして、時代とともにその解釈が大きく変化してきた。遷宮が「エコ」の観点から語れるようになったのもわずかこの三〇年に過ぎない。伊勢神宮の近代はどんなに変化と発明の多い時代だったか、それまで神宮の研究をしたことがなかった私にとって驚きだった。連載後、当時の『図書』編集長に伊勢について一冊書いてみたら、と言われた。さて、遷宮の言説はさることながら、遷宮そのものの歴史はどうだろうと、咄嗟(とっさ)に考えた。

 今振り返ると、これは無謀な発案だった。研究者として、一千年以上の長い歴史をどう扱うかという問題以外に、果たして語るべきストーリーがあるだろうか。二〇年ごとに同じように行われてきた式年造替遷宮はその内実が反復だけで変化がなく、歴史として面白くない可能性があった。しかし、発見もあるだろうという予感もあった。明治以前には、遷宮後の神宝の多くが地中に葬られたということをその頃知ったからだ。我々は遷宮ごとに造られる新しい殿舎と神宝にばかり目が行き、その前後を歴史的に考えてこなかった。

 私は過去の遷宮を文化人類学でいう「ポトラッチ」を介して考えるようになった。膨大な富を集めて、それを分配したり、破壊したりする儀礼だ。こうして、神々の神宮とは別次元の聖なる「物の歴史」が浮かび上がり、反復だけではなく変化に富んだ物語があらわれたのだ。

(じょるだん さんど・日本近代史)

 
◇こぼればなし◇

〇 この度の能登半島地震により亡くなられた方々に謹んでお悔やみ申し上げ、被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。小誌校了時点では被害の全容が明らかになっていませんが、避難されている方々への充分なケアと、被災地域の少しでも早い復旧復興を願っております。

〇 昨年末に、ウクライナを代表する詩人オスタップ・スリヴィンスキーさんが、戦火を逃れてきた人びとの体験を聴き取り、七七の単語と物語で構成したドキュメント『戦争語彙集』が出ました。

〇 翻訳は日本文学研究者のロバート キャンベルさん。「言葉の意味が、戦争によって瞬時に、一瞬にしてひん曲げられてしまう、変えられてしまう」(一八一頁)ことに気づき、聴き取りを続けてきたスリヴィンスキーさんの仕事を、ぜひ日本語の読者にも翻訳・紹介したい、との熱意からです。そのキャンベルさん自身が現地を訪ね、スリヴィンスキーさんや避難者たち、日本文学専攻の学生や研究者、演劇関係者、アーティストらと交流して綴った手記も収録しています。

〇 車に乗ったまま爆破され亡くなった人たちを弔うときに墓標代わりとなった「ナンバープレート」。家のなかで唯一、身の安全を確保できるシェルターとなって守ってくれた「バスタブ」。戦下では危険なものとなり、根こそぎ潰されるためにある「きれいなもの」……。

〇 言葉の意味の変容を記録した語彙集は、語る人たちの内面や見えている風景を切り取ったスナップショットでもあり、一つひとつは「断片」であっても、それを積み重ねることで、「「悪」を押し留めるような抑止力になるのではないか、という微かな希望を抱いた」とキャンベルさんは書きます(二一七頁)

〇 キャンベルさんは、「言葉もシェルターになれるのではないか」とも問うています(二三八頁)。「ウクライナに来て思うことは、言葉が持っているエネルギーについて、私たちはもっと自覚的でなければいけない、ということでした。自分自身を励ますために、あるいは他者との結びつきを深めるために、言葉のエネルギーを大事にそして適切に使っていかなければならない、ということです。ヘイト・スピーチのように、他者を排撃して分断をもたらすことのために、言葉のエネルギーを浪費して良いのでしょうか」(二四〇―二四一頁)

〇 内容構成や装いを一新しました月刊誌『世界』はたいへん好評をいただき、一月号はすぐに増刷となりました。内外の大きな危機の時代、言葉の力を信じ、読者の皆様とともに歩んでまいります。

〇 ご報告です。『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』が、「紀伊國屋じんぶん大賞2024」の第一位に選ばれました。小社から『戦後日本と国家神道』、『日本仏教の社会倫理』等の著作のある宗教学者の島薗進さんが、二〇二三年度朝日賞を受賞されました。

〇 新連載は、反響を呼んだ「ガラン版 千一夜物語」(全六冊)の訳者、西尾哲夫さんによる「〈『千一夜物語』の父〉ガランの謎」です。ご期待ください。


『図書』年間購読のお申込みはこちら

タグ

関連書籍

ランキング

  1. Event Calender(イベントカレンダー)

国民的な[国語+百科]辞典の最新版!

広辞苑 第七版(普通版)

広辞苑 第七版(普通版)

詳しくはこちら

キーワードから探す

記事一覧

閉じる