第23回理科読シンポジウム 盛口満さん講演会「学ぶこと読むこと」
第23回理科読シンポジウム 盛口満先生講演会「学ぶこと読むこと」
「学ぶこと読むこと」と題して、沖縄大学学長の盛口満先生が講演されました。
盛口満先生のご著書、岩波ジュニア新書『めんそーれ!化学』では、戦争で学校へ行けなかったおばあちゃんたちが、先生の教える夜間中学で嬉々として学ぶ姿が描かれています。
本書の執筆を通して先生が考えた「学ぶということの本質」について、お話しくださいました。
理科系の本の普及に熱心に取り組んでおられる司書さんや学校の先生たちを中心に、多くの方がお集まりくださいました。
この講演をきっかけに、「お題もらい、学ぶことについて改めて考えた」という盛口先生。
自由の森学園での教員時代に印象に残った生徒さんたちや、盛口先生自身が師と仰ぐ人たちを例に挙げながら、いまの教育指導は「こうしたらこうなるという目標設定」を求められるが、それとは逆に「学ぶことは、変わること」ではないかと問題提起。
一例としてあげられたのは、川で魚を掬いたいがためにインドネシアに移住した魚オタクの元生徒。インドネシアではアブラヤシのプランテーションをつくるために森林伐採が進み、川の水温があがって魚が住めなくなっている現状を前にして、考えます。そして、森を大事にする先住民の暮らしを学んでヒントを得て、純胡椒で産業を興すことによって森を守ろうと奮闘中だそう。
「学びたいと、学んで変わっていくものだ」と先生は語ります。
また、夜間中学に通ってくるおばあちゃんたちは「学校に行っていないという自信のなさが原動力になり、学ぶことによって自信をつけたくて学校に通っている」と話し、『めんそーれ!化学』や「図書」に書かれている、おばあちゃんたちのその後も紹介されました。
「先生にとって本とは?」という質問に、「本は書くもの」と答えておられたのも印象的でした。
盛口先生のお父様は化学教育の専門家で、岩波ジュニア新書『実験大好き!化学はおもしろい』の著書でもあり、亡くなる直前まで実験の話をしておられたそうです。
そんなお父様が本を書いておられた姿を子どもの頃から見て育ったので、自分もいつかは本を書くものだ、と思っておられたという盛口先生。
「書くことで自分が何を言いたいか確かめる。人に伝えるための工夫を探すことが、本を書くこと」という言葉に、先生の精力的な執筆活動の源を見た気がしました。
そしてシンポジウムの後半は、出版関係者によるお勧めの科学の本紹介[サイエンスビブリオ]です。
約5分間でおすすめの本を紹介するのですが、岩波書店からは盛口先生の『めんそーれ!化学』に加え、ジュニア新書『クマムシ調査隊、南極を行く!』と、岩波科学ライブラリー『クマムシ?! 小さな怪物』も。
前者は、南極観測隊に生物学者として参加した著者による活動記録で、貴重な写真も満載。後者はしばしば「最強生物」と呼ばれる不思議なクマムシの生態や研究の歴史を紹介し、クマムシブームのきっかけになった本です。
なぜこの2冊かというと、著者の鈴木忠先生が、じつは盛口満先生のファンだったので、講演を聴きにいらしていたのです!
というわけで、著者自身によるサイエンスビブリオ!
なお、『クマムシ?!小さな怪物』は巻末に観察方法も紹介しているので、夏休みの自由研究などにたいへんおすすめです、といっても、もう今年は間に合いませんね……(同シリーズの『フジツボ 魅惑の足招き』『昆虫の交尾は、味わい深い…。』も、同様に、巻末に観察方法等を紹介しています)。
会場の後方には、各社が持ち寄った理科系の児童書の見本が並べられ、みなさん熱心に見入っておられました。
ここでご紹介できたのはほんの一部でしたが、ご来場の皆様も熱心に質問くださり、理科の本にたくさんの応援団がおられることを実感できた楽しい一日になりました!
※なお、理科読シンポジウムがもとになった書籍『理科読をはじめよう』は現在品切れですが、復刊を希望される声が多く、電子化を予定しています。また、オンデマンド出版も今年の11月中旬以降に予定しております。