『図書』2025年6月号 目次 【巻頭エッセイ】栗木京子「短歌は自由自在」
【対談】読むことは世界への扉を開く……伊与原新、木下通子
【私のイチ推し】松村由利子/宇田川幸大/山崎ナオコーラ/長沼祥子/東えりか/神野紗希/河島弘美/仲島ひとみ/宇佐美文理/読書猿
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日本語書体の大変革期……正木香子
音楽を描く……牧野伊三夫
文学(黄・緑・赤)の分類/学術(青・白)の分類……山本貴光
「ひとをケアする仕事」としての本屋……大和田佳世
『カラマーゾフの兄弟』は家族人類学にとって宝の洞窟だ……鹿島茂
六月に降る雨と雪……柳家三三
六月、磯を賑わす変わり者たち……円満字二郎
世界がはっきり見える……中村佑子
こぼればなし
六月の新刊案内
[表紙に寄せて]花の器/佐藤文香
短歌の入門書を出しませんか、と岩波ジュニア新書編集部から打診されたときはとてもうれしかった。
短歌は古めかしい、そして五七五七七という制約があるので窮屈と思われがちだが、実は短歌は自由自在な表現形式である。千数百年の歴史をもつが、百人一首のような昔の言葉で詠む必要はない。現代の話し言葉で大丈夫。俳句にある季語などの約束事もない。さらに五七五七七の定型についても、型に嵌められていると考えれば息苦しいが、この絶妙な短さがかえって心地よく感じられるときがある。オンライン上でメッセージを交わす感覚で、気軽に言葉を発することができるからである。
他者の短歌を読むだけでなく自分でも作ってみたい、と心を揺さぶられるところも短歌の魅力と言えよう。自作を誰かに見せて感想を聞きたくなる。短歌のその人懐っこさは、ジュニアの方々と相性が良いと思う。ジュニア新書の執筆を機にして小学校や中学校から依頼を受けて出前授業に訪れるようになった。
初めは戸惑っていた子たちが、授業の終わる頃には率直な感情や考えを発信してくれる。何よりも幸せな瞬間である。
(くりき きょうこ・歌人)
〇 1979年6月創刊の岩波ジュニア新書は、今年5月刊行の『生きるためのブックガイド──未来をつくる64冊』(同編集部編)をもって1000タイトルを数えました。本号は、この機会に叢書の来し方を振り返るとともに、多彩な魅力をご紹介する特集号です。
〇 ジュニア新書編集部は、中学・高校の先生方や学校図書館の司書の方々、生徒さんたちなど教育現場との関係を大事にしながら、活動を積み重ねてきました。先生方にジュニア新書の新刊をお送りし、ご意見やご要望をお聞きするモニター制度を設けているほか、編集部が関東近郊の学校にお邪魔し、生徒の皆さんと一緒にジュニア新書やジュニアスタートブックスを読む出張読書会も続けています。
〇 モニターの先生は、年に2回発行している「岩波ジュニア新書編集室通信」の12月号で募集。編集部によると、新規のご応募が毎年10校ぐらい、継続が3、4校で、中学・高校の司書さんや国語科の先生を中心に応募をいただいているとか。
〇 ちなみにこのモニター制度ですが、ジュニア新書創刊20年の1999年に発足して四半世紀以上になる、息の長い取り組みです。小誌同年1月号「こぼればなし」には、「教育現場の先生方のご意見を編集活動にいっそう反映させたいと願っております」と、そのねらいと意気込みが語られています。出張読書会とあわせて、学校現場とのつながりを維持し、深め、企画や編集、プロモーションのヒントをいただけるのはありがたい限りです。この場をお借りして、関係各位に改めて感謝申し上げます。
〇 ジュニア新書の刊行1000点突破に際して、判型を左右105ミリから110ミリへと少し広げ、よりゆったりと読みやすく、図版・表組もその分、大きく掲載できるようにいたしました。もう一つ、これは以前からですが、ジュニア新書は扉のデザインと見出しのデザイン、またフォントが本ごとに毎回違うものになっていて、読者に親しみをもってもらうために細かな工夫をしています。ぜひ近刊を何冊かお手に取って見比べてみてください。
〇 岩波ジュニア新書1001点目は大井朋幸さんの『ボクは日本一かっこいいトイレ清掃員』。1000点記念の別冊『中高生のための新書のすすめ』(同編集部編)も総目録を収録のうえ刊行します。全国のご協力書店で開催の1000点突破記念フェア「ベスト・オブ・岩波ジュニア新書」にもご注目ください。
〇 小誌5月号における連載「岩波文庫で読む世界文学と家族」で誤植がありました。「ゴドヴリヨフ家」は、正しくは「ゴロヴリヨフ家」です。目次とタイトルを含めて訂正いたします。著者の鹿島茂さん、および読者の皆様に謹んでお詫び申し上げます。