『図書』2025年5月号 目次 【巻頭エッセイ】木村榮一「本との思いがけない出会い」
パリで消えたナチ占領下日記……藤森晶子
戦後生まれの私が聞いた山の手空襲の話……遠山秀子
「日本被団協」初代理事長・森瀧市郎の問いかけ……嘉指信雄
復元・複製・修復から日本美術史を再構築する……髙岸輝
川端康成『名人』と木谷明のこと……泉徳治
橋口五葉と夏目漱石、さらに岩波書店……岩切信一郎
プランクトンの声を聴く……山内若菜
独身生活……奥本大三郎
ウォーター・コーリング……永井佳子
岩波文庫百周年/古典とはなんだろう……山本貴光
反骨と祈りを子どものそばに……大和田佳世
シチェードリン『ゴロヴリヨフ家の人々』は共同体家族なのだろうか?……鹿島茂
五月は鰹とドキドキと……柳家三三
五月、青葉と清流と爽やかな風……円満字二郎
部屋のなかの狂気……中村佑子
こぼればなし
五月の新刊案内
[表紙に寄せて]午前四時、雨のシャルル・ド・ゴール/野崎有以
母校で教壇に立つことになったが、自分の選んだ論文のテーマが肌に合わないように思えて、途方に暮れていた。
そんな中、勤め先の大学に迷い込んできたメキシコ人と話すようになり、雑談の中で愚痴をこぼすと、だったらいい本があると言って、コルタサルの『石蹴り遊び』を進呈してくれた。この小説に出会って目が覚めたようになり、一気に読み終えた。そこからラテンアメリカの現代文学にのめり込み、コルタサルの短篇集やバルガス=リョサの『緑の家』、さらにはボルヘスの短編集など手当たり次第に読み漁った。
ガルシア=マルケスの小説を手に取るようになったのはそれから一、二年後のことで、『百年の孤独』を読んだ時は、この作家は間違いなく本物だと感じた。
それからも彼の巧みな語り口に魅せられて、作品を次々に読んでいった。
その後、岩波書店のI氏に勧められて『物語の作り方』を訳したのだが、今回それが岩波現代文庫になり、訳者としてうれしく思っている。
(きむら えいいち・ラテンアメリカ文学)
〇 新年度が始まって少し経ちました。置かれる環境や周囲の人間関係が変化することで、誰しも戸惑い、不安を抱えがちな時節です。ことに思春期のお子さんやその親御さんは、お互い、揺れる心に翻弄される場面が増えるときではないでしょうか。
〇 2009年の著書『フツーの子の思春期──心理療法の現場から』で、従来の「ふつう」では考えられなかったことが「フツー」になっている思春期の子どもの諸相を分析して話題を呼んだ、臨床心理士の岩宮恵子さん。その岩宮さんの新著『思春期センサー──子どもの感度、大人の感度』が3月に出ました。
〇 前著から約15年。思春期だけでなく様々な年齢層の人たちと臨床現場での面談を続けてきた実感として、思春期に特有の心理的な特性「思春期心性」が、老年を含む全年齢層に広がっていることを感じているそうです(『思春期センサー』「はじめに」)。「常に激しい変化のなかで今を生きている私たちのこころは、「思春期」という内的にも外的にも激しい変化を生きている時期のこころの特性とシンクロする部分が多々あるのではないだろうか。私たちには、思春期を終えた挙げ句の大人という到達点が見えないなかで、永遠の思春期を生きている部分があるように思う」と(同)。
〇 新著のテーマ「思春期センサー」とは、こうした思春期心性の感性装置のことです。この敏感なセンサーは、こころの誤作動や傷つきなど、思春期心性のしんどい側面、マイナス面を感知します。でも、それとは違うポジティブな可能性ももっている。岩宮さんはそう強調します。思春期センサーが「何か」を感知したり、活性化したりするところから、創造的な変化や自己治癒につながっていく面もあるというのです。
〇 SNS時代は思春期をどう変えたのでしょう。自らも思春期を生きているのかもしれない大人もまた、センサーの「感度」を問われているのかもしれません。
〇 さて、日々接する報道のなかでも、米国大統領が連日繰り出す大統領令には暗澹とさせられ、憤りを禁じえません。歴史家、紀平英作さんの遺作となった岩波新書『リンカン──「合衆国市民」の創造者』を読んで勇気をもらいました。「リンカンが挑んだ民主主義のための苦闘を多面的に跡付ける作業は、単に歴史研究の問題だけではない。今日のアメリカ社会また現代世界が、無残なまでに露出する近代の行き詰まりを見つめ直す意味で、取り組むべき課題にみえる。民主主義の生き残りそのものが、その課題を緊急としているのだから」(同書「終章」)。
〇 創刊100年を2年後に控え、山本貴光さん連載「岩波文庫百話」がスタート。創業者の岩波茂雄も、読者の皆様とともに楽しみにしていることでしょう。
<お詫びと訂正>
『図書』第917号(2025年5月)にて、下記の誤りがありました。著者の鹿島茂先生および読者の皆様にお詫びを申し上げますとともに、謹んで訂正いたします。
【1頁 目次】
(誤)『ゴドヴリヨフ家の人々』
(正)『ゴロヴリヨフ家の人々』
【48頁 タイトル】
(誤)『ゴドヴリヨフ家の人々』
(正)『ゴロヴリヨフ家の人々』
【51頁上段12行目・下段10行目】
(誤)ゴドヴリヨフ家
(正)ゴロヴリヨフ家
2025年5月
『図書』編集部