『ものがたり西洋音楽史』を読む 近藤譲さんトークイベント「耳の考古学」
岩波ジュニア新書は今年で創刊40年です。それを記念して、ジュニア新書の著者をお招きしてお話していただく、「ジュニア新書を読む」という講座がスタートしました。第1回は『ものがたり西洋音楽史』の著者、近藤譲さんです。
西洋音楽史を俯瞰した本書ですが、そこでも述べられているように、音楽は時代によって様々に変化します。音楽の変化の歴史は、音楽の聴き方の変化の歴史でもあります。例えば、ルネサンス時代の人々の音楽の聴き方(つまり、「耳」)と、現代の私たちのそれはどう違うのか? 実際に音楽を例に挙げながら、「時代の耳」について考えてみよう、という内容でした。
会場は、岩波書店の本がそろっていてカフェメニューも美味しいと評判の、神保町ブックセンターです。イベントの開始は19時。薄暗くなり始めたころ、参加者の皆様が集まり始めます。
こちらがイベントスペース。30人で定員の予定ですが、多くの方がご参加くださり、追加で椅子を出すほどに!
近藤さんのご著書も販売。
作曲家として150曲以上の作品をもつ近藤さん、「これほど自分を魅了する音楽とはなんだろう?という疑問から、作曲を始めた」と語り始めます。
そして、本日のテーマ「時代の耳」へとお話は移ります。
録音技術がない時代の音楽は文献や絵画などから探っていくしかないのですが、30年ほど前から、歴史的情報に基づく演奏が盛んになってきたそうです。
しかし、それでも演奏をするのは、「現代の耳」をもつ現代の人。例えばバッハの音楽を演奏するのに、その後のブラームスやベートーベンを知っている人がそれを弾いたら、それはやはりバッハの時代の音楽とは異なるのではないか? と、疑問を投げかけます。
また、聴き手も同様に、現代の耳を18世紀の耳に取り替えることはできません。仮に完璧に当時の演奏を再現できたとしても、当時の人達がそれをどう聴いたかは、やはりわからないのです。
その当時の耳を知る試みとしてできることは、当時の人達を条件づけていた社会的状況やものの考え方、音楽とはどういうものと考えられていたかを知ること。『ものがたり西洋音楽史』の執筆にあたって、音楽のどういうところに価値を見て皆がそれを聴いていたのかを書いてみようと心がけたそうです。
「音楽の体験なしに、音楽は理解できません」とおっしゃる近藤さんは、本書で具体的な曲をできるだけ多く紹介しておられますが、それは、読者の方に挙げられた曲を聴きながら読んでほしいから。実際に会場でも、ヘンデルの《王宮の花火の音楽》やグレゴリオ聖歌など、ご説明に挟みながら鑑賞。
中世の時代には「神への祈りの言葉を乗せて、神へと運ぶ乗り物」であった音楽が、ルネサンスでは「神への大切な言葉を収める、美しい箱・建物」へと移り変わっていくという変遷を、時に本を参照しながら解説してくださいました。
「本書の中身を全部話すには、60回分のレクチャーが必要」と近藤さん。
まだまだお話は尽きませんでしたが、「耳の体験があってこその知識。ぜひ、掲載されている音楽を聴きながら『ものがたり西洋音楽史』を読んでほしい。全部聴いたら、本は読まなくてもいい。体験のほうが大事です」と締めくくられました。
その後の質疑応答にもたくさんの方が手を挙げてくださり、時間切れに。サイン会にも多くの方が並んでくださって、近藤さんと談笑しておられました。
参加者の方からも「ぜひ続きを」という要望も多かったので、次回を検討中です。具体的な日程が決まれば、岩波のウェブサイトでも告知いたします。
また、近藤さんがエッセイをご寄稿くださった岩波書店PR誌「図書」5月号を、ご来場されて本をお買い上げの方にプレゼントさせていただきました。こちらのエッセイはこちらからお読みいただけます。