『図書』2024年12月号 目次 【巻頭エッセイ】暉峻淑子「大人にもサンタクロースを」
〈対談〉今、編み物をするということ……山崎明子×佐久間裕美子
学ぶ力と「たつじんテスト」……今井むつみ
生成AIは良いエッセイを書けるのか……岡野原大輔
「第九」、その「のっぴきならなさ」に寄せて……小宮正安
こどもがこどもでいられるように……よこのなな
出会いと絡み合いのフィールドワーク……山口徹
「三島由紀夫とドナルド・キーン」展に思うこと……キーン誠己
能登・輪島を想う……眞木啓子
『源氏物語』とプルースト……吉川一義
向島長命寺「木の実ナナ植樹碑」……金文京
狂い終わる女……中村佑子
タンポポの空……川端知嘉子
ケインズとシェイクスピア……前沢浩子
愛の千一夜……西尾哲夫
こぼればなし
一二月の新刊案内
──『サンタクロースを探し求めて』現代文庫化に寄せて
自分の国の首相の名前を知らない子どもはたくさんいるけれど、サンタクロースを知らない子どもは、ほとんどいないだろう。子どもは誕生日や子どもの日にもいろいろなプレゼントをもらったはず。それなのに、なぜサンタクロースを特別に待ち望むのか。その謎が少し解けた事件があった。
個人的な話で恐縮であるが、ちょうど息子が三歳になったばかりのクリスマスの朝のことだ。サンタにお願いしていた色とりどりの様々な形の積み木が詰まった箱が、彼の枕元に置かれていた。目が覚めて、それを見つけた息子は喜んで、さっそく積み木で遊び始めたが、やがて親の枕元には何もないことに気が付いたらしい。まじまじと親をみつめていた彼は、積み木を一本だけ自分のところに残し、あとは箱ごと親の枕元に運んできて「ママ。僕がサンタクロースに頼んだのは、あの一本だけだったの。あとはママのところに来たんだよ」と親を一生懸命慰めてくれたのだ。
その日は、息子の幼稚園にもサンタが来た。先生が園児たちに「誰かサンタクロースとお話ししたい人はいますか?」と言うといつも寡黙な息子が手を挙げたので、サンタは息子の前で足を止めた。息子は「(僕の)おじいちゃんは、今病気なの。おじいちゃんの所にも行ってあげて」と頼んだとか。忙しいばかりで思いやりなどという道徳を子どもに教えたことがない不徳の両親である。でも子どもの魂はサンタのよびかけに応えたのだ。人間には欲得よりも、もっと根本的な喜びがあるのだと──。
(てるおか いつこ・経済学者)
〇 今年も残すところわずかとなりました。皆様にとって、この一年はどのような年になりましたでしょうか。ウクライナとパレスチナ・ガザ地区の戦火は依然消えず、中東では拡大の懸念が高まっています。そのなかで一〇月に接した、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)に対するノーベル平和賞授与の一報には、一筋の光明を見る思いでした。
〇 二度と被爆者をつくらないために、核兵器廃絶と原爆被害への国家補償を訴え続けてきた被団協の、長く困難な道のり。その歩みをふり返り、次世代に伝える岩波ブックレット『被爆者からあなたに──いま伝えたいこと』(被団協編、二〇二一年刊)は刷を重ね、この度さらに新しい刷のもと、より多くの読者に迎えられています。「人間として死ぬことも、生きることも許さない」、「人類史上初めての「原爆地獄」を体験」した被爆者(同書「はじめに」)の証言は、人間が人間であるとはどういうことかを示しているようです。
〇 同じ一〇月には、今年度の文化勲章受章者として、漫画家のちばてつやさん、詩人の高橋睦郎さん、環境リスク管理学が専門の中西準子さんら、七人が選ばれました。今年八月刊行のブックレット『引き揚げを語る──子どもたちの戦争体験』(読売新聞生活部編)には、ちばさんのインタビュー「引き揚げ体験を振り返る」が収録されています。
〇 「船のなかでも、多くの死を目の当たりにしました。奉天の社宅でよく遊んだ友達の「キョウちゃん」もその一人でした。〔…〕眠ったまま二度と目を開きませんでした。半分開いた口のなかをハエが出たり入ったりしているのを、ただ呆然と眺めていました。「人間ってこんなに簡単に死んじゃうんだ」と強烈に思いました」(同書五四―五五頁)。
〇 来年は「戦後八〇年」。「体験」を伝えていくことの切実な重要さと、しかしそれを実際に現状を変えるための力とすることの困難と、だからこその新たな可能性と。同時に考えさせられます。
〇 ここで読者の皆様へ、お知らせがございます。小誌は、諸般の事情により、明年一月号から定価を一五四円(本体一四〇円+税)とさせていただきます。年間の定期購読料につきましては、四月号以降のお申し込みからは、一五〇〇円となります。何卒ご了解くださいますよう、お願い申し上げます。
〇 受賞のご報告を二件。第七二回「菊池寛賞」を政治ジャーナリストの後藤謙次さんが受けられました。受賞理由に、小社刊『ドキュメント平成政治史』全五巻の結実、とあります。第三九回「女性史 青山なを賞」の受賞作として、平井和子さんの『占領下の女性たち──日本と満洲の性暴力・性売買・「親密な交際」』が選ばれました。
〇 軽妙で滋味深い加藤静允さん表紙絵連載は本号で最終回となります。新年号から、表紙は志村ふくみさんの裂の作品をモチーフとしたものに変わります。金文京さんの「東京碑文探訪」も最終回です。ご愛読ありがとうございました。