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『図書』2025年3月号 目次 【巻頭エッセイ】養老孟司「環境と自己」

◇目次◇
〈環境を読む、私たちを知る〉
環境と自己……養老孟司
温暖化のはずなのに大雪が降る不思議……星川淳
スズメからの問いかけ……小林彩
われらをめぐる砂……椿玲未
危機に立つ海の環境……井田徹治
     * 
私たちはどんな社会を求めるのか……中村一成
めだかの学校の写真展……大島幹雄
舞踏と山海塾……蟬丸
円仁の見た宝誌像……小峯和明
チェンニーノ・チェンニーニとその『絵画術の書』をめぐって(下)……森田義之
Lost in Translation……結城円
プーシキン『オネーギン』とロシア貴族の家族……鹿島茂
三月は“花見”の噺で泣き笑い……柳家三三
三月、海からやってくる春……円満字二郎
私たちは魔女だ……中村佑子
アンリ・ルソーの輪郭線……川端知嘉子
こぼればなし

三月の新刊

(表紙=志村ふくみ《緑格子》藍、刈安、梔子)
[表紙に寄せて]もうひとつの世界では/柳本々々
 
 
◇読む人・書く人・・・・作る人◇
環境と自己
養老孟司
 

 私は昭和12(1937)年生まれ、現在までの日本社会の変化を一言で都市化と表現してきた。経済に注目する人は高度経済成長、政治に注目する人は平和と民主主義と表現する。都市化を言い換えれば意識化であり、私の表現では脳化である。その間に起こった大変化の1つがいわゆる「環境」問題である。ヒト(自己)や生物一般を取り巻く世界が変わった。環境省という新しい省庁もできた。環境が強く意識されると同時に、その環境に「取り巻かれるほうの私たち」、自己の問題が暗黙のうちに、つまり観念的に拡大してきた。私はそう感じる。個の尊重とか、個性を伸ばせとかいう現象。

 さて、その「自己」は外部環境と同じく強く意識化され、意識の中の自分こそが自分だとなり、いわば最小限に縮小した。「うさぎ追いしかの山、小鮒釣りしかの川」は本来自己を構成するものだったが、外部的、客観的な世界に移った。私は子どもたちには、田んぼや畑、里山は将来の君たちだよ、と教える。食物が体を作るからである。明治維新、文明開化、第二次大戦と敗戦は日本人の自画像を大きく描き変えた。その変化は進行中で、終わってはいない。

(ようろう たけし・解剖学者)

 
◇こぼればなし◇

〇 今年は「戦後80年」「昭和100年」にあたりますが、「1995年から30年」の年でもあります。戦後50年だった1995年は、その後のこの国、この社会のあり方を方向づける分岐点となるような年でした。阪神・淡路大震災。地下鉄サリン事件。沖縄での少女暴行事件と抗議の県民大会、日米安保問い直しへの動き。Windows95とインターネットの黎明。バブル崩壊後の相次ぐ金融機関破綻。非正規・低賃金雇用拡大の基点となった日経連の報告書「新時代の「日本的経営」」発表……。

〇 そこから何が変わり、何が変わらなかったのか。『世界』一月号の特集「1995 終わりと始まり」は、作家の赤坂真理さんによる考察「この国の貌が見える特異点」を巻頭に、30年という時間の底流にあるものを様々な角度から照らし出します。

〇 いっぽう『科学』1月号の特集は、「震災の教訓は活かされたか──阪神・淡路大震災30年」。巻頭の「阪神・淡路大震災の教訓をいかに活かすか」で室﨑益輝さんが注意を促すのは、教訓が活かされていないという影の面だけでなく、教訓が活かされて大きな変革がもたらされた光の面に着目することが大切だということです。その上で、次のような「教訓の進化論」が強調されます。

〇 「高齢化や過疎化をどう乗り越えるか、被災の多重化にどう向きあうか」「能登半島地震を経験した後では、阪神大震災を見る眼が違ってくるので、30年前には気付かなかった新たな教訓が引き出される。住宅再建と経済再建との関わりや災害ボランティアと地域コミュニティとの関わりなどの、新たな視角が付け加わって教訓が上書きされる」「災害が進化すれば教訓も進化するという、教訓の進化論の立場に立つ必要がある」。

〇 「災害の進化」「被災の多重化」は、海水温上昇など急速な地球環境変容もその大きな要因でしょう。最近、世界最大の氷山「A23a」が南極から漂流して北上し、南大西洋のサウスジョージア島に衝突するのではないかと専門家たちが危惧しています。島で繁殖するアザラシやペンギンといった野生動物が餌場に辿り着くことが困難になるかもしれないと。これも地球温暖化のなせる業です。

〇 〈環境を読む、私たちを知る〉と題して、本号では小特集的なまとまりをつくってみました。『ネオニコチノイド 静かな化学物質汚染』(ブックレット)、『サンゴは語る』(ジュニアスタートブックス)、『追いつめられる海』(科学ライブラリー)、『海洋プラスチック汚染』(同)等、小社関連書籍の読書案内ともなっています。

〇 新連載は仏文学者、鹿島茂さんの「岩波文庫で読む世界文学と家族」です。岩波文庫の世界の名作を読み解きながら進む航海にご期待ください。


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