『図書』2026年9月号 目次 【巻頭エッセイ】濵本奏「誰かの岸辺へ」
【対談】食べものから社会を考える……斎藤幸平・平賀緑
二〇二六年の与謝野晶子……寺井龍哉
『ケアと編集』とお笑い……どくさいスイッチ企画
地域の縁側のような美術館……奥山理子
危機と分断の時代を空海が結びつける……渡辺祐真
チェコの写真から見えたもの……桐谷美香
150匹の同窓会……森絵都
異説清仏戦争……倉本知明
心の健康診断としての古典……小川哲
物語化する世界の片隅で……神野紗希
怪火の正体は暴かれるのか……大場裕一
スーパー長寿者の食卓……武田時昌
世界の歴史/日本の歴史……山本貴光
こぼればなし
九月の新刊案内
[表紙に寄せて]風/小林エリカ
ある日、とある街のバス停に、五・七・五の短い詩を記した小さなテプラが貼られているのを見つけた。誰が何のために残したのかはわからない。けれど、見えない存在からの信号のような十七音を、私はたしかに受け取った。
またある時期、私は海にボトルメールを流していた。もう会うことのできないある人に宛てた手紙だったけれど、遠い国の誰かが拾っていたりして。あるいはまだ海を彷徨っているかもしれないし、どこかに沈んで海底に小瓶の城ができているかもしれない。行方がわからないからこそ、あの人に届いているかもしれないという可能性を信じることができた。
いつか誰かに届くことを信じて何かを発信する人の営みに、私は惹かれてきた。それぞれの手段で世界へ放たれた言葉は思いがけない場所で誰かに届き、その人のなかに残り続けることがある。私があの日のテプラに惹きつけられたように。
私のありふれた言葉や、半径数メートルの景色も、いつか誰かのもとへ流れ着き、その人の心にわずかな波紋を残すことがあるなら、それ以上に嬉しいことはない。
(はまもと かなで・写真家)
〇 出版社というものは、なにかと周年を記念したがるものです。節目の年に取り組みを行なうのは、その人物や書籍にご関心をお寄せいただく契機となればと願ってのことですが、出版に携わる私たち自身が、時代の変遷と、それでも変わらぬものを、確かめたいからなのかもしれません。
〇 岩波文庫は来年、創刊から100年目を迎えます。記念の年に向けて、小誌では先月号まで鹿島茂さんに「岩波文庫で読む世界文学と家族」を連載いただき、山本貴光さん「岩波文庫百話」、小川哲さん「岩波文庫の倒し方」を、好評連載中です。岩波文庫の誕生日は、1927年7月10日。岩波文庫が99歳となった今年のその日、「岩波文庫創刊100年」特設サイトをオープンいたしました。
〇 特設サイトでは、2つの記念企画をお知らせしています。1つは「岩波文庫創刊100年記念 読者リクエスト復刊2027」です。復刊のリクエストは、インターネット上の特設ページとお問い合わせフォームのほか、おはがきでも承っています(岩波書店営業部「文庫100」係宛)。締め切りは2026年9月23日です。
〇 もう1つの記念企画は「「岩波文庫の会」再結成」です。山本貴光さん連載の7月号「岩波文庫の会と『文庫』」に詳述されていたように、「岩波文庫の会」とは、機関誌『文庫』を軸として1951年から1960年まで活動していた、愛読者の組織でした。同会は定員1万人を達成し、予定していた10年の運営期間の満了をもって終了しました。新たな「岩波文庫の会」は、会員制ブッククラブとして、2027年1月の発足を計画しています。募集開始は後日のご案内となります。
〇 岩波文庫創刊の前年、1926年12月には、改造社から1冊1円の『現代日本文学全集』、通称「円本」が刊行され、一世を風靡しました。この春、日本近代文学館で開催された「「円本」から読む日本近代文学」展では、電通が手掛けた円本の新聞広告や宣伝映画、作家による講演ツアーが紹介されており、その規模は現代の目から見ても圧倒されるものでした。
〇 岩波茂雄は、岩波文庫発刊に際し、「近来流行の大量出版物を見るに、或は唯広告と宣伝とに力を専らにして、その内容に至っては杜撰到底真面目なる人々の渇望を満足し得ることなく」と「円本」を痛烈に批判し、「万人の必読すべき真に古典的価値ある書を極めて簡易なる形式に於て遂次刊行」すると宣言しました(『思想』1927年7月)。関東大震災で多くの本が焼け、今日とも重なる書籍価格高騰の不況下に、円本とは異なる方法で新たな出版に挑んだ岩波文庫。創刊100年を迎えるにあたり、編集部では魅力的な新刊をお届けすることを何よりめざし、準備に力を注いでおります。どうぞご期待ください。




