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『図書』2024年7月号 目次 【巻頭エッセイ】小山内園子「あとがきの告白」

◇目次◇

あとがきの告白……小山内園子
近代の宿業を生きた作家……安藤宏
「鵲の渡せる橋」と日本の七夕伝説……冨谷至
扇の話、裏おもて(上)……福井芳宏
ツェッペリン飛行船の戦争と平和……清水亮
ショック・ドクトリンとアメリカ例外主義……西谷修
台湾にいったい何があるというんですか?……清水チャートリー
佐藤正午さんの孤高……山田裕樹
幽霊車の行方……横山泰子
死の淵のティーパーティー……中村佑子
気・樹・危機・行基……川端知嘉子
じゃじゃ馬の結婚……前沢浩子
歴史から消えたガラン訳『クルアーン』……西尾哲夫
上野不忍池弁天堂琵琶碑……金文京
フクロオオカミ最後の一頭……川端裕人
こぼればなし

七月の新刊案内

(表紙=加藤静允) 
 
 
読む人・書く人・作る人◇
あとがきの告白
小山内園子
 

 小説を読み終わって、本篇のあとに「あとがき」のページがないと、「ああ、日本文学だった!」と思う。これが韓国の小説だと、続くことが多いのだ。「作家のことば」というあとがきが。評論家の解説つきも多く、物語が産み落としたものを言葉で確認する文化だとつくづく思う。とはいえ、「本当は書きたくなかった」と、作家からこっそり耳打ちされることもある。

 ク・ビョンモもそんな一人だと思っていた。あとがきはないほうが多く、あっても短い。『破果』も、原書初版収録の「作家のことば」を、改訂版ですっぱりカットしている。編集部からタイトルの解題を求められて書いたが、なくてもいいと思ったもので。作家のそんな言葉に潔さを感じた。

 だから、六月刊行の『破果』の外伝『破砕』に「作家のことば」があって、それが別の潔さにあふれていることに少し驚いた。キャラクター造型にさほど関心がないと公言してきた作家が、あとがきで主人公について、こう書いていた。

 「そして私は、彼女が完璧でないから好きです。/健全でない思考と有害な感情を抱きうる人間だから好きです。」

 背景には、改訂版刊行後に『破果』がくぐりぬけた審判の時間がある。フェミニズムからの思いがけない指弾。作家の告白は、資格審査で振り落とされがちな人生を包摂するという宣言にも読めるし、実際『破砕』では、そんな人生の闇と輝きが切り取られている。不寛容な時代にそんな告白をする作家の世界を偏愛していることを、訳者もまた告白しておく。

(おさない そのこ・韓日翻訳者)

 
◇こぼればなし◇

〇 日本は「一瞬だけ繁栄した奇妙な国」として終わるのか。そう問いかける寺島実郎さんの新著『21世紀未来圏 日本再生の構想──全体知と時代認識』が好評で、重版しています。五月の刊行から程なくして日本工業倶楽部会館で行われた著者の出版記念講演会では、大ホールを埋める参加者の皆様が熱心にメモを取る姿が印象的でした。

〇 寺島さんが本書で強調するのは、七七年ごとの歴史の節目です。明治維新から敗戦の一九四五年までの「明治期」が七七年、そこから二〇二二年までの「戦後期」も七七年。そしていま、二二世紀を迎えるまでの向こう七七年間の未来圏をどのように構想するか。外交、経済、政治の三本の柱から論じていきます。

〇 七七年ごとの転換は、日本のGDPの世界に占める比率とも関わるものです。明治維新の頃、その比重は推定三%程度、敗戦後の一九五〇年でもやはり三%。それが一九九四年には約一八%を占めてピークを迎えますが、二〇二四年現在、世界比重はまた三%台に落ち込もうとしています(同書三頁)。寺島さんの再生構想の前提となる時代認識と世界認識が種々のデータをもとに説得力十分に語られるので、読者は問題の核心に否応なく正対し、自分事として考えることを余儀なくされるでしょう。

〇 たとえば「異次元の少子化」と結びつけて考えるべき「異次元の高齢化」。日本はこのままだと人口減が進み、二〇五〇年前後には一億人を割ると予想されるそうです。しかも二〇五〇年には三九〇〇万人(人口の約三七%)が六五歳以上になるとか。ちなみに日本の人口が一億人を超えたのは一九六六年。ところが同年の六五歳以上は六六〇万人(六・六%)に過ぎませんでした(以上、八─九頁)。客観状況から目を逸らさず、この国、この社会が取り組まないといけない諸課題とは何かが本書では示されます。

〇 寺島さんの講演会があった丸の内の日本工業倶楽部会館は、一九二〇(大正九)年に竣工した建物で、部分的に保存し、再現する形で二〇〇三年に再生しました。今年の「東京建築祭」では同館内の特別ツアーも組まれたようです。こうした古い建物の保存・再建や、街の歴史と文化の継承に対する人々の関心はますます高まっているように思われます。

〇 小誌四月号の有友亮太さんエッセイ「ビールとともにある街の歴史」もそのような関心に応えるものと言えましょう。エッセイの最後で四月のオープンが予告されていた「YEBISU BREWERY TOKYO」に先日、編集部でお邪魔して見学してきました。ヱビスビールと恵比寿という街、双方が一体となった歴史を学び、この地で三五年ぶりに再生した新しい醸造所の醸造責任者である有友さんご自身からも商品開発についてお話を伺うという僥倖に恵まれました。

〇 受賞報告です。第一八回日本科学史学会賞が発表・贈呈され、日本科学史学会特別賞を小社としていただきました。

〇 新連載は、中村佑子さんの「女が狂うとき」です。どうぞご期待ください。


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