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『図書』2025年2月号 目次 【巻頭エッセイ】佐藤志敦「春と旅立ちを待って」

◇目次◇
春と旅立ちを待って……佐藤志敦
チェンニーノ・チェンニーニとその『絵画術の書』をめぐって(上)……森田義之
幸せになる能力(たぶん)……森本あんり
花盛りの庭……奥本大三郎
海を渡った鎌倉のユリ……入江麻理子
できごとの場所……大坂紘一郎
見たことのない景色へ……宮本文昭
岩波文庫「百冊の本」にお世話になりました……山田裕樹
イスタンブールで聴くイエスタデイ……阿部成樹
子規編輯『古白遺稿』考……復本一郎
ドイツの中の「日本写真」……結城円
グローバル・シェイクスピア……前沢浩子
二月には厄払い……柳家三三
二月、凍てつく水の中から……円満字二郎
不調の波……中村佑子
火廼要慎・ひと要慎……川端知嘉子
こぼればなし

二月の新刊案内

(表紙=志村ふくみ 《室内》栗、矢車五倍子)
[表紙に寄せて]ハロゲンランプ/杉本真維子
 
 
読む人・・・) ・書く人・作る人◇
春と旅立ちを待って
佐藤志敦
 

 おととし、還暦で初の訳書を出すという体験をさせていただいた。邦訳出版とは、なんと多くの人の手を渡っていく仕事なのかと圧倒された。

 遠い国の原作者がいて、原作を世に出した出版社があり、それに惚れこんだ訳者の提案に目をとめた編集者をはじめ、校正、装画や装丁、印刷や製本などに携わってくれた方々がいる。出来上がった本は、物流システムにのって書店や図書館に届き、そこで働く人たちによって読者に手渡されてはじめて、この世に生みだされた目的を果たす。なんという大航海だろう。

 書店や図書館は、さしずめ多種多様な船が行きかう港だ。そこで一期一会の読者とめぐり会った本は、また新たな航海に出る。壮大な本の旅に思いをはせながら、いま、『屋根の上のソフィー』と題した二冊目の旅のはじまりを待っている。

 沖縄で桜の便りが聞かれるこの時季、ここ釧路では、最高気温が氷点下の日も珍しくない。それでも、立春を過ぎると、日差しがほんの少し明るくなる気がする。パリの夜をパルクールさながらに駆け抜ける子どもたちの物語が出港するには、ふさわしい季節かもしれない。

(さとう しのぶ・翻訳者)

 
◇こぼればなし◇

〇 二〇二五年二月で、ロシアによるウクライナ侵攻から丸三年が経ちます。一月に再びその座についたトランプ米大統領は停戦に向けた和平交渉に意欲を見せていますが、戦争の終わりは見えません。とはいえ、この戦争について私たちが何を知り、どう考え、どんなことを語るのか。その記録の蓄積がこれから先の歴史の土台ともなり、世界の行方に影響を与えることもあるかもしれません。

〇 たとえば、軍事侵攻から一年が経った二〇二三年二月に出た岩波ジュニア新書『10代が考えるウクライナ戦争』(同編集部編)は、各地の高校生が座談会やインタビューで語った率直な意見をまとめた一冊です。ロシアはなぜウクライナに侵攻したのか、という疑問に対しては、NATO拡大をめぐるドラマと米ロ対立の現代史に迫った『1インチの攻防──NATO拡大とポスト冷戦秩序の構築』上下巻から歴史的背景を知ることができます(M・E・サロッティ著、岩間陽子・細谷雄一・板橋拓己監訳、一二月刊)。著者は外交史研究の第一人者です。

〇 そしてまた、本稿執筆時点で停戦交渉が一定の進展をみせているとの報道があるガザですが、どうなっていくのでしょう。そんないま、昨年四月に日本語版を刊行した『戦争は、』という絵本が刷を重ね、読者を獲得しています。

〇 ポルトガルの著名な詩人・作家であるジョゼ・ジョルジェ・レトリアさんと、その息子で画家・編集者のアンドレ・レトリアさんが合作した絵本(木下眞穂訳)。「戦争は、何も聞かない、何も見ない、何も感じない」「戦争は、物語を語れたことがない」「戦争は、沈黙だ」など、すべて「戦争は、」から始まる簡潔で強い印象を残す言葉と、黒やグレーを基調色とした絵からなる作品です。

〇 アンドレさんは一一月に、ポルトガル大使館の招きで来日。都内各所での講演やイベントに参加されました。アンドレさんがクリエイターとして大事にしているのは「silence」「空白」だとか。何を言わないか、が重要で、そこに読み手は自身の背景を投影し、イマジネーションを発揮することができる。だから人によって解釈が変わってもいい、と。

〇 そして、この絵本は、とりわけ一番伝えるべき子どもたちにとっての「目ざまし時計」だと言います。小さな音ですてきな音楽が流れる目ざましではなく、大きな音で不安と衝撃と不快感を与えるような目ざまし。そうでないと、人は起きないでしょう、とアンドレさんは語っていました。

〇 受賞報告です。第六回野球文化學會賞・研究部門に中村哲也さんの『体罰と日本野球』が選ばれました。

〇 前沢浩子さんの「シェイクスピアとイギリスのナショナリズム」は本号で最終回です。ご愛読ありがとうございました。


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