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『図書』2025年9月号 目次 【巻頭エッセイ】内海愛子「東京駅前広場に建つ「愛」の像」

◇目次◇
東京駅前広場に建つ「愛」の像……内海愛子
ショスタコーヴィチ再考……島田雅彦
サン=テグジュペリ翻訳余滴……野崎歓
須磨の煙の行く方……高田祐彦
白いサティとブラックアトランティック……仲野麻紀
「よみうり抄」は百年前の日本を探る情報の宝庫である……紅野謙介
ぼくのルネッサンス……新宮晋
デラウェア的サイズのカメラで……小田香
暴力ハンターイ……奥本大三郎
『モモ』──豊かな時間とその根源……河合俊雄
文庫のはじまり学術系文庫の世界……山本貴光
ショーロホフ『静かなドン』にみる共同体家族の不文律とは……鹿島茂
暑さ厳しい九月のお祭り……柳家三三
九月、秋の澄んだ水の中で……円満字二郎
ただ真実を語っているだけなのに……中村佑子
こぼればなし

九月の新刊案内

(表紙=志村ふくみ 《三彩絣》藍、刈安)
[表紙に寄せて]カズイスチカ/森本孝徳
 
 
◇読む人・書く人・・・)・作る人◇
東京駅前広場に建つ「アガペー)」の像
内海愛子
 

 東京駅丸の内駅前広場の一隅に両手を高くひろげて天を仰ぐ青年の像が建っている。円筒の台座には漢字で「愛」、その下にギリシャ語で「アガペー」とだけ刻まれている。巣鴨刑務所刑務官だった森田石蔵氏によると、台座の中には刑死した戦犯の遺書を集めた『世紀の遺書』が納められているという。

 『世紀の遺書』には、田嶋隆純教誨師の序文と701篇の遺書が収録されている。石垣島で米軍飛行士の処刑を命じられた藤中松雄の遺書もある。28歳で刑死した藤中は長文の遺書を残し、子供たちには「如何なる事があつても/戦争は絶対反対/を生命のある限り」叫び、「世界永遠の平和/のために貢献して頂き度い」と書き残している。

 わずか数行の遺書、壁や布地に書き遺した遺言を書き写したものある。初めて読む遺書に衝撃を受けた人も多く、『世紀の遺書』は短期間に版を重ねた。その収益金で制作されたのが「愛」像である(横江嘉純制作)。

 東京池袋のスガモプリズン跡に「永久平和を願って」と刻まれた巨石が建つ。「愛」の像と巨石が戦犯刑死者の存在を今に伝えている。

(うつみ あいこ・歴史社会学)

 
◇こぼればなし◇

〇 「「日本映画」というこの書物の論述の対象が、いまなおその全貌を人びとの視線にさらしたためしがなく、いたるところに隠されている無数の作品の思いもかけぬ視覚的=音響的な魅力を、時代に応じて、見せたり隠したりしているというべきかもしれない。では、そのように捉えがたい「日本映画」という対象に、いったい、どのように向かいあえばよいのか」。9月新刊、蓮實重彥さん『日本映画のために』の「序文に代えて」の一節です。

〇 「この書物に収められた論考にしかるべき共通点があるとするなら、そのどれもが、個々の作品に認められる「フィルム的な現実」を、くり返し見直すことで何とか捉えようとする意志に導かれているという一点にかかっているといえるかもしれない」(同前)。

〇 山中貞雄、小津安二郎、溝口健二、成瀬巳喜男、鈴木清順、吉田喜重、中島貞夫、北野武、黒沢清、濱口竜介……。40年にわたる約30篇の論稿に加え、書下ろしの「内田吐夢論」や新世代の映画作家との対談を収録した、著者初の日本映画論集成。20年ほど前、蓮實さんの講義シリーズ「とことん日本映画を語る」聴講のため青山ブックセンター本店に通いつめた小欄筆者にとっても、待望の本です。

〇 『日本映画のために』は、「いまなお第三の黄金時代にある」日本映画界を祝福する書でもあります。「相米、北野、黒沢、青山らの作品が日本映画にもたらした不可逆的な変化は、それから二十数年後の現在、濱口竜介、大九明子、三宅唱、小田香、小森はるかといった稀有な人材によってまぎれもなく受けつがれているのだから、一九五〇年代の黄金時代が作風の変化を伴いつつも六〇年代の中期から末期まで及んでいたように、日本映画はいまなお第三の黄金時代にあると言うべきかと思っている」(同前)。

〇 9月20日から10月10日まで、シネマヴェーラ渋谷で本書刊行記念の特集プログラムが組まれますので、ぜひお運びください。また、今秋、ニューヨークでも、ジャパン・ソサイエティ主催の映画祭が予定されています。

〇 「暑くてたまらない」。こんなタイトルの特集が、『科学』8月号で組まれました。気候変動問題の現在を諸データから捉え、水産業と農業、食文化のこれからのあり方、スポーツ現場、運動部活動の暑熱対策、熱中症リスクの低減策、洪水や渇水に備える方策、グリーンインフラの活用等、多角的な観点から迫っています。

〇 特集の副題は、「「1.5℃超え」の世界を生きる」。2024年の全球平均地表気温が、産業革命前に比べて「+1.5℃」を初めて超えたというのです。たかが1.5℃?と思うかもしれませんが、それがどれほどのことなのか、本特集から知らされました。


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