『図書』2026年8月号 目次 【巻頭エッセイ】黒柳徹子「字が好きです」
その犬、野犬にして名犬……森絵都
沈黙と禁忌……倉本知明
イギリス型絶対核家族と遺産相続の自由……鹿島茂
文学の最善手とは何か?……小川哲
季語と人間、どちらが大切?……神野紗希
蛍絵の図像学……大場裕一
越前半井家の系譜を辿る……武田時昌
簡にして要を得た説明/岩波文庫の解説はいつから?……山本貴光
こぼればなし
8月の新刊案内
[表紙に寄せて]眠ること あさのあつこ
私は小さい頃から本を読むのが好きだった。両親は、本ならば好きなのを買っていいと本屋さんに連絡してくれて、私はツケで、好きな本を選んでは、家に帰って読んでいた。でも戦争になって本がなくなっていき、最後に残ったのは新作落語の本で、私は、それも買って帰って、読んでは笑っていた。小学校に上がる前に、結核性股関節炎というのにかかって入院した。足に石膏のギプスがはまっていたので、その時も色んな本を読んだ。当時のことなので、世界名作全集みたいなもの。詩の本。片っ端から読んだ。高校生の頃は、戦後の読書ブームみたいのもあって、本屋さんに行くと、いろんな本があった。「サマセット・モーム」「ブロンテ姉妹」「シュテファン・ツヴァイク」とか、全集を読んだ。『メリー・スチュアート』を最近読み返してみたけど、こんな厚い、細かい字の本を、若い時は、どんどん読んでいたのかと、自分でも驚いた。
今も字が好きで、読む本が手元にないと、薬瓶の細かい字なんかを読んで、みんなに笑われたりしている。本ほど面白いことがつまっているものはないと、感心する。これからも、死ぬまで読んでいたい。
(くろやなぎ てつこ・女優、ユニセフ親善大使)
〇 暑い夏です。欧州各地で観測史上最高気温を記録するなど、地球規模の気候変動を実感せずにはいられません。涼を求めて旅に出たくもなります。新型コロナ感染症の打撃を受けた旅行業は、物価高や円安の影響を受けながらも、この3年でかなり復調しているとのこと。夏休みに遠出される方も多いのではないでしょうか。
〇 「避暑旅行の大進歩」。そう題した風刺漫画が、120年前、雑誌に掲載されました。高媛さんの『帝国と観光──「満洲」ツーリズムの近代』によると、1906年7月から8月にかけ、朝日新聞が満洲と韓国を巡遊する観光旅行を催し、大規模メディア・イベントであり満洲ツーリズムの幕開けでもあったその旅が、漫画にも描かれたのでした。時を同じくして、陸軍省・文部省の共催で、「満韓修学旅行」も大々的に実施されます。旅行業者大手のJTBは、1912年、外国人観光客誘致を目的とする半官半民の機関として発足し、満洲観光で重要な役割を果たしました。「観光は単なる娯楽の手段にとどまらず、帝国の支配と理念を広め、帝国意識を植え付けるための重要な装置として機能していた」のです(同書より)。
〇 『帝国と観光』は、観光学術学会2026年度学会賞(著作賞)と日本観光研究学会第19回学会賞観光著作賞(学術)を受賞いたしました。丹念な研究に裏打ちされた本書を通して、個人的な体験である旅が、ときに政治と密接に関わるものであること、そしておそらく現在もそうであることを、考えさせられます。
〇 近年の海外修学旅行先としては、豪州や台湾が人気です。5月刊の岩波ジュニア新書『旅して学ぶ台湾』が、ご好評をいただいております。先史時代まで遡り、先住民族の世界からオランダ東インド会社の時代、日本統治を経て現代まで、年表や見学コースも掲載し、ジュニア世代に限らず、旅のお供としても、台湾を知る入門書としても、最適の一冊です。他の土地やそこに暮らす人びとを知ることは、読書の喜びです。同時に、その土地や人びとの痛みの記憶にも、読書は導いてくれます。
〇 この8月を迎えるにあたり、本号では〈81年目の読書〉として特集を組みました。伊丹万作や渡辺清、堀田善衞が、戦中戦後に何を考えたのか、トルストイは戦争と権力者、群衆についてどう説いていたのか、軍事化とジェンダーについて省みられずにいたことはなかったか──。「感受性の場所が失われ、他者の痛みも自分の痛みも感じ取れなくなると、暴力は反復され、さらに深化していく」(本号、金ヨンロンさん寄稿より)。いずれのエッセイも想像力と感受性を喚起するもので、「いま」と「わたしたち」に向け、切実な願いをこめて書いてくださったことが伝わってまいります。ぜひ、ご味読ください。




