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『図書』2024年1月号 目次 【巻頭エッセイ】国谷裕子「私にとっての岩波新書」

◇目次◇
《新赤版二〇〇〇点突破記念》
私にとっての岩波新書……国谷裕子
岩波新書〈新赤版〉一〇〇一―二〇〇〇ななめ読み……南陀楼綾繁
概説書を書くということ……小野寺拓也
哲学が始まる場所へ……古田徹也
生きる権利を他と比べてはならない……木村草太
覚悟の人が描く、患者が医療を改善し、支える社会……武藤香織
「ナッジ」と「医療・健康」……依田高典
周縁化された人々から歴史を問う……寺尾紗穂
なし崩しに進む軍事化を見つめ直すために……猿田佐世
統治者たるの覚悟はあるか?……松沢裕作
〈古層〉の探究から現在を問う……安藤礼二
不良とボサツ……恩田侑布子

なぜ十字架ではなく「杭殺柱」か……佐藤 研
「民選議院設立建白」一五〇年……宮地正人
新習俗?……近藤ようこ
谷中本行寺「斎藤歓之助先生碑」……金 文京
語りの背後にあるもの……竹内万里子
資本主義に抗う政治……前田健太郎
正木直彦校長時代の三一年間……新関公子
一九一四年九月一日、リョコウバト絶滅……川端裕人
こぼればなし
一月の新刊案内
(表紙=加藤静允)
 
 
◇読む人・書く人・作る人◇
私にとっての岩波新書
国谷裕子
 

 本を執筆する動機は人により様々だろうが、私が岩波新書の執筆を引き受けたのはとても個人的な理由からだった。新書を書くことで、半年前に『クローズアップ現代』を離れた自分自身に区切りを付けることができるのではと思ったのだ。三〇年近くキャスターとして働いてきた私にとっての大きなキャリアの転機。番組で向き合ってきた多くのことを見つめ直す時間を持つことで、次なる自分を見出したかったのかもしれない。

 番組のDVDを次から次へと観続けるうち、日々の放送では見えていなかった時代の大きな変化、インタビューから生まれた言葉の重み、テレビ報道の持つ危うさなど、様々な思いが湧き上がってきた。それをいかに岩波新書という器に盛り、個人的な執筆動機を昇華して読者にどのようなメッセージとして届けられるのか、数か月にわたる苦闘が続いた。

 キャスター時代の私にとって岩波新書は、目先の事柄への安直なガイドでもハウツー本でもなく、番組毎に新しく出会うテーマへの窓となって私の視界を広げてくれた。そうした新書の列に加わるものを執筆するという重圧に押しつぶされそうにもなったが、書き出すと次々と書きたいことが浮かび、原稿にできなかったこともたくさん残った。それでも執筆の動機だった思いは『キャスターという仕事』で果たせたと思っている。

 本の終章で、時代に個人が翻弄されるなか一人ひとりが自分の置かれた立場を俯瞰することの重要性に触れた。岩波新書が今後もその役割を担ってくれることを期待している。

(くにや ひろこ・ジャーナリスト)

 
◇こぼればなし◇

〇 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。年頭にあたり、読者の皆様のご多幸をお祈りし、日頃のご愛顧に感謝申し上げます。一月に岩波新書が〈新赤版〉二〇〇〇点を突破することをうけ、本号では新書特集を組みました。

〇 新赤版の二〇〇一番となるのは、岡野八代さんの『ケアの倫理──フェミニズムの政治思想』。政治思想・フェミニズム理論の第一人者が満を持して書き下ろした注目の書です。二〇〇二番のきたやまおさむ著『「むなしさ」の味わい方』他、一月は六点を刊行いたします。

〇 黄版から新赤版へのリニューアルは「昭和」最後の一九八八年、岩波新書の創刊半世紀となる年でした。記念の小誌特集号は同年九月。巻頭言は筒井康隆「岩波新書のくびかせ」。日高六郎、赤瀬川原平のエッセイや藤沢令夫・岡田節人対談等々、「ニューアカ」ブームから数年後、「教養主義」が未だ完全に死語にはなっていない時代の緊張感をまとった貴重な読み物になっています。

〇 なかでも、天野祐吉のエッセイ「岩波新書は軽い」が最高です。「一冊一八〇グラムくらいの身軽さだから、「ちょっとこれ貸してネ」「ああ、いいよ」と、軽い気分で貸し借りが成立してしまう」。本題はその後です。「「軽い」のは、目方だけではない。中身もまた、岩波新書はスリムで軽い」。「その一、言葉が軽い」、「その二、フットワークが軽い」。「岩波新書は軽い」論が、見開き二頁で見事に展開されます。

〇 天野節にもう少し耳を傾けてみましょう。「これは木下順二さんが言ったのだと思うけれど、「わかりやすく書く」ということは、パリッと炊けているご飯をグジャグジャのおじやにして出すことではない。それはパリッと炊けたものをパリッとしたままでパリッと切り取って見せるということであって…」。「インテリじゃなくても知的なものにゾクゾクしたい気持ちはあるわけで、そういうヤツをもちゃんとゾクゾクさせてやろうという思いやりがないモノ書きは、やたらにおじやを作りたがるモノ書きと同じように、ぼくは嫌いだ」。天野さんならではの諧謔と批評は、いま読んでも私ども編集者の背筋をピンと伸ばしてくれます。

〇 月刊誌『世界』が、この一月号でほぼ四半世紀ぶりにリニューアルをいたしました。就任からほぼ一年となる堀由貴子編集長は「いっそう身近で、血の通った雑誌を目指し、アカデミア・社会運動・ジャーナリズムを結んでいきます」と宣言。内容・構成・レイアウト・デザインを刷新するほか、新ロゴや雑誌キャラクターも登場しました。

〇 小誌の表紙図版が本号から加藤静允さんの絵に変わりました。描かれた時節の風物から、人生の愉しみが出汁のように染み出てくる連載になることと思います。金文京さんの連載「東京碑文探訪」もスタート。東京近辺にお住まいの散歩好きは(そうでない方も)、小誌片手にぜひお出かけを。


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