和菓子月ごよみ*葉月 カステラ
小学校時代に一番嫌いな学科は算術であった。いつでも算術の点数が悪いので、両親は心配して中学の先生を頼んで、夏休み中、先生のうちへ習いに行くことになった。
…考えていると頭が熱くなる。汗がすわっている脚ににじみ出て、着物のひっつくのが心持ちが悪い。頭をおさえて庭を見ると、笠松の高い幹には真赤な凌霄(のうぜん)の花が熱そうに咲いている。よい時分に先生が出て来て、「どうだ、むつかしいか、ドレ」といって自分の前へすわる。
繰り返して教えてくれても、結局あまりよくはわからぬと見ると、先生も悲しそうな声を少し高くすることがあった。それがまた妙に悲しかった。
(寺田寅彦「花物語 のうぜんかずら」より)
よくがんばったね!はるか昔、明治の寅彦少年。
夏休みの勉強をがんばったごほうびには、冷たくひやしたカステラを。
*葉山かすてーら らんとう(神奈川・日蔭茶屋)
「カステラは和菓子です」というと、同意を得られないことがままある。その形、食感から、まず洋菓子が連想されてしまうからだろう。確かに南蛮菓子という性格上、西洋起源であることは事実。しかし長い歴史を経て、カステラはすっかり日本独自のものに変化している。
(中山圭子著『事典 和菓子の世界 増補改訂版』より)