tanemaki diary*ことばを味方に
ラグビー・トップリーグ新人研修会にて
広辞苑のプロモーションのひとつとして、各スポーツ連盟の日本代表クラスのアスリート向けに、ことばのワークショップを開催しています。それぞれの連盟からの依頼で、強化合宿のなかにプログラムを組み入れていただくことが多いのですが、これまでに、全日本水泳連盟、ラグビートップリーグ(新人研修)、全日本柔道連盟の各団体様の合宿におじゃましました。
ワークショップは、数人のグループに分かれてわいわい相談しながらすすめます。出身地の方言や、競技特有のことば、自分が得意な技などについて、広辞苑風の説明文を書いてもらいます。
最初は「辞書をみると体がかゆくなる!」「辞書はうちにあるけどさわったことない」と大騒ぎでも、そのうち仲良く広辞苑をのぞきこむ姿が結構楽しそうです。
なにより、さすがトップアスリートだと思うのはその理解力と集中力。「えー、どうやって書けばいいのかぜんぜんわかんない!」とテンションの低い選手でも、少しだけヒントを出すと瞬時にしてイメージをつかみ、脇目もふらずにさらさらと書き始めます。
ここまで3つの競技の選手たちにお会いしましたが、面白いくらい雰囲気が違います。
競泳選手は、陸にいるコーチと水中の選手が正しくコミュニケーションをとるために、お互いに伝わることばを大切にしているだけあって、説明文で使う言葉も厳密でこまやか。選手たちは子どものころから男女一緒にスイミングクラブで過ごしてきているので、とても仲良しです。また、会場にはいってくるなり、勝手勝手に広辞苑をさわってひらく自由な姿も特徴的でした。
ラグビーの選手は、たとえば「広辞苑風に」と言うと、出題の大枠をすばやくつかむのが得意。ひらがなの見出しがあり、【 】で漢字があり、説明も大きな定義から細部、そして用例…といういかにも辞書っぽい説明文を器用に作ります。また、用例で笑いをとるという高度な技もあり、本当に感心しました。
柔道の選手は、技の名前が漢字だということもあって、驚くほど抵抗なく漢字をどんどん書きます。また、相手と組む競技だからか、人との距離がとても近い感じ。「この技ってどういうの?」とうっかり質問してしまい、「ああ、これはねー」と立ち上がったメダリストにあやうく技を掛けられそうになりました。
このワークショップは、広辞苑の編集者が講師なので、「正しい日本語を教える」とか「マスコミインタビューでお行儀のいい日本語を使う」というためのものでは全くなく、広辞苑を実際に使いながら、日本語の広い海でのびのびと遊ぶ体験をしていただくものです。
ワークショップでの経験が、選手のみなさんにとって、競技の魅力を自分のことばで一般の人たちにつたえ、ファンを増やしていくために少しでもお役にたてれば、たくさんさわっていただいた広辞苑にとってもこのうえない喜びです。
スピードスケートの小平奈緒選手は、「ことばと競技でみなさんに活力を」と発言されています。アスリートにとっては、豊かなことばを持つことが力になり、自分らしいことばが味方になり、見ている人たちにさらに感動を与えるのだと思います。
まもなくアジア大会が開幕。ワークショップに参加してくださった選手のみなさまをはじめ、すべてのアスリートの方々の活躍を心から楽しみにしています。
そしてアスリート向け広辞苑ワークショップも、これからさらに続きます。