tanemaki diary*車内の贅沢
去年の暮、劇団の広報の方に、「最近、電車で本を読んでいる人が増えてますよね」と言われました。出版界では「本が売れない」「紙の本は読まれなくなった」と、おまじないように言われ続けているだけに、他業界の方の言葉がとても気になりました。たしかに注意してみると、圧倒的多数のスマホのなかで、車両に必ず一人は本を開いているのです。
一昨日は、なんと座席の3人が並んで本を開いているのを発見。思わず「やった!」と小さくこぶしを握りしめてしまいました。
「そんな少数!」とあきれられるかもしれませんが、ずっと前に新書の編集長に「中央線で一人新書を読んでいたら、そのタイトルは〇〇部売れているということだよ」と教わったことがあります。(肝心の部数を忘れてしまいましたが…)
さらに、もうひとつ気が付いたこと。
もはや絶滅したか思っていた、車内で新聞を読む人もちらほら見かけるようになりました。隣の人に迷惑にならないように、縦に折りながら読んでいる方を見ると、あのマナーも健在だったか、とほほえましくなります。
車内読書が復活しつつあるのは、震災後の省エネで一時は暗くなっていた車内照明が戻ったからかもしれません。あるいは単純に「スマホは目が疲れるし、なんだか飽きた」(これは私)という人が出てきたのかもしれません。
読まれている本の中身はなかなかわかりませんが、女性は書店カバーをかけた単行本、男性は自前のカバーをかけた文庫本を読んでいるのが目立ちます。ある時期は図書館の本を読んでいる方をよく見かけましたが、このマイカバーに隠されているのか、それも目立たなくなりました。
個人的に車内用として気に入っているのが、ソフトカバーで本文用紙も軽めの単行本。今はA5判で300ページ近く、しかも中は2段組みという読み応えのあるエッセイを読んでいますが、このソフトカバーの単行本、片手でささえてもいい感じで手になじみ、そのまま閉じて手に持ちやすく、ふかふかしていて軽いのです。
しおりのおかげで読んでいたページに一瞬にしてアプローチできるし、今さらながら本の便利さも実感。
仕事では四六時中本をさわり、速読の癖がついているのですが、自分の時間では締め切りもないし、なるべく1冊の本に何日もかけて紙に癒されています。