吉田千亜 『孤塁 双葉郡消防士たちの3・11』〈著者からのメッセージ〉
初めて語られる、死と隣り合わせの葛藤
吉田千亜
二〇一一年三月一二日。東京電力福島第一原子力発電所の一号機爆発の映像は、誰もが驚きをもって見守っていたのではないでしょうか。その、画面の向こう、爆発現場の数キロ地点で、住民避難誘導、避難広報、そして救助・救急搬送活動を必死に行なっていた双葉郡の消防士に初めて会ったのは、二〇一八年一〇月のことでした。そこから一年ほど通い、当時活動をしていた消防士六五名から、当時の話を聞き、さまざまなことを教えてもらいました。その想像を絶する過酷な活動は、原発事故が「なかったこと」のように語られる現在こそ、知らなければならないと改めて感じています。
これまで、多くの被害者・避難者からお話を伺い、それぞれが抱えさせられた原発事故の被害を聞いてきました。そしていま、それぞれの立場の違いから「被害の語りにくさ」が色濃く広がっています。その一方で、「今、やっと話せる」ということもある。そういった事実を、一人の小さな声を、書き手としても、隣で生きる一人の人としても、大切に受け取りたいと思っています。
原発事故は終わっていない。そして、その事故をどう捉え、どう教訓を得るのかは、この時代に問われていると思います。どうか、この本を読んだみなさまが、ともに考えてくださることを願っています。