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田中純『デヴィッド・ボウイ』〈著者からのメッセージ〉

変幻する歌声の秘密

 ポピュラー音楽のみならず、過去半世紀の文化全般に大きな影響を残したデヴィッド・ボウイの代表曲に〈「英雄たち(ヒーローズ)」〉があります。この歌では、「ぼくらは何ものでもない(We're nothing)」といったように、nothing という言葉が多用されています。本書副題にある「無(ナシング)」は、ボウイの作品全体の鍵となる概念です。
 この書物でわたしは、ボウイの楽曲を年代順に考察してゆくことにより、自分が長年魅せられてきた彼の作品世界、とくにその変幻する歌声の秘密に迫りたいと思いました。本書はまた、拙著『政治の美学』所収のボウイ論を発展させ、ロックンロールを通じてボウイが体現した独特な政治性を論じています。
 ボウイの作品内で「無(ナシング)」が帯びる色気とその背後の文学的伝統など、彼の歌声の官能性と楽曲が宿す思想の両面を、いわば歌うように論じることを目指した本書が、ボウイと読者とのあらたな出会いの場になることを願っています。

(たなか じゅん/東京大学教授)

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著者略歴

  1. 田中 純

    1960年宮城県仙台市生まれ、千葉県で育つ。東京大学教養学部および同大学院総合文化研究科でドイツ研究を学ぶ。博士(学術)。現在、東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は表象文化論。近現代の思想史・文化史のほか、さまざまな芸術ジャンルの作品を縦横に論じる。著書に、『アビ・ヴァールブルク 記憶の迷宮』(青土社、サントリー学芸賞)、『都市の詩学─場所の記憶と徴候』(東京大学出版会、芸術選奨文部科学大臣新人賞)、『政治の美学─権力と表象』(東京大学出版会、毎日出版文化賞)、『イメージの自然史──天使から貝殻まで』(羽鳥書店)、『冥府の建築家──ジルベール・クラヴェル伝』(みすず書房)、『過去に触れる──歴史経験・写真・サスペンス』(羽鳥書店)、『歴史の地震計──アビ・ヴァールブルク『ムネモシュネ・アトラス』論』(東京大学出版会)など、訳書に、サイモン・クリッチリー『ボウイ──その生と死に』(新曜社)がある。2010年、フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞受賞。モットーとするボウイの言葉は、「ぼくが与えなければならなかったのは/夢見ることの罪だけだった」(〈時間〉)。

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