都甲幸治『暗闇に戯れて──白さと文学的想像力』<著者からのメッセージ>
モリスンの勇気ある一歩
2000年以降、アメリカ文学では大きな変化が起こっている。主要な文学賞の受賞者として、ベンガル系のラヒリやネイティブ・アメリカンのアードリックなど、人種的マイノリティや女性たちの名前がずらりと並ぶようになったのだ。
このような根底的な変革を長年、担い続けた作家がいる。それが『暗闇に戯れて』の著者トニ・モリスンだ。彼女は本書において、ヘミングウェイやポー、キャザーといった古典作品を読み解きながら、その裏に、彼女がアフリカニズムと名付けた、黒人たちに偏見を押し付ける機構が作動していることをえぐり出す。
サイードの『オリエンタリズム』を発展させた彼女の議論を読んでいると、組織化された差別の醜さがよく分かる。と同時に、どうしたらこの世の中を変えられるか、というヒントも与えてくれる。歴史を直視しながら、恐れず声を上げること。黒人女性であるモリスンが踏み出した勇気ある一歩は、あなたに感銘を与えずにはおかない。
(とこう こうじ/早稲田大学教授)