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吉川一義『失われた時を求めて14』〈著者からのメッセージ〉

 『失われた時を求めて』を全訳して


 プルーストの小説は、紅茶に浸したマドレーヌの挿話だけでは片づけられない。その随所に、作家独自のことばの魔術による自然描写が出てくる。そこまで書くのかと溜め息が出るほどにうがった心理分析も見られる。サドマゾヒズムとしか形容できない性愛も暴かれる。愛する肉親の死も容赦なく克明に描かれる。

 ユダヤ人や同性愛者への差別というアクチュアルな社会問題もクローズアップされる。社交界の会話には、漱石の『吾輩は猫である』を想わせる諧謔と皮肉があふれている。本作は文学や絵画や音楽や演劇をめぐる高尚な芸術小説と思われがちであるが、実際には面白おかしい場面が頻出する。

 かくも多様な人生の諸相、過去の忘却と蘇生、それを通じてあぶり出される「時間」、これらを感知せしめるためにプルーストは桁外れの長篇を必要とした。

 すべては「ついに発見され解明された人生、それが文学である」という作家の信念から発する。人生にかんする意識せざる真実を発見できる歓び、訳者も日々その歓びを味わいつつ本作を全訳した。

(よしかわ かずよし/京都大学名誉教授)

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著者略歴

  1. 吉川一義

    京都大学名誉教授。2010年、岩波文庫から『失われた時を求めて』個人全訳を刊行開始(全14巻)。元日本フランス語フランス文学会会長(2009-2013年)。日本プルースト研究会会長。フランス政府・教育功労章オフィシエ(2010年)、フランス学士院・フランス語フランス文学顕揚賞(2010年)、日本学士院賞・恩賜賞(2012年)。著書に『プルースト美術館 : 『失われた時を求めて』の画家たち』(筑摩書房、1998年)、『プルーストの世界を読む』(岩波書店、2004年)、『プルースト「スワンの恋」を読む』(白水社、2004年)、『プルーストと絵画 : レンブラント受容からエルスチール創造へ』(岩波書店、2008年)、翻訳に、モーリス・バレス『グレコーートレドの秘密』(筑摩書房、1996年)、ジャン゠イヴ・タディエ『評伝プルースト』(筑摩書房、上下2巻、2001年)、プルースト『失われた時を求めて』(岩波文庫、全14巻、既刊12巻、2010年〜刊行中)、『現代フランス語辞典 Le dico : dictionnaire français-japonais』白水社、1993年(2003年から『ディコ仏和辞典』と改称)(共著)、Proust et l’art pictural, Honoré Champion, 2010 ; Index général de la correspondance de Marcel Proust : d’après l’édition de Philip Kolb, Presses de l’Université de Kyoto, 1998(書簡集の索引監修)など。

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