町田哲也『家族をさがす旅』〈著者からのメッセージ〉
自らのルーツを探る
町田哲也
「あなたのお兄さんにあたる人がいるの」
そんな母の言葉から、ぼくの旅ははじまりました。四〇代にして、はじめて知った異母兄の存在。ぼくを突き動かしたのは、父はいったいどんな人生を歩んできたのかという問いでした。
父については、知らないことばかりでした。自分の過去を語りたがらない性格に加えて、家庭内暴力がひどかったことから、ぼくは長く、父に対して家族という感情を抱くのをやめていました。今さら本人に確認しようにも、すでにもうろうとした意識のなかです。わずかな記録と関係者の記憶から、ひとりの男の人生をたどり直したのがこの本です。
旅の途中では、さまざまな出会いがありました。岩波映画製作所での青春時代、もうひとつの家族の存在、残されたテレビCM…… 父の人生のハイライトシーンを追いかけていく過程で、ぼくははじめて自分という存在の根源に立ち合えたのかもしれません。
(まちだ てつや/作家)