竹市雅俊『あつまる細胞 体づくりの謎』<著者からのメッセージ>
偶然の出会いを大切に
自分の研究人生を振り返ってみると、ずいぶん行き当たりばったりだった。研究を始めるには目標を定め実験計画を立てる。しかし、頭に描ける目標など、だいたいは常識路線だ。ところが、科学における大発見は、しばしば想定外の結果から生まれる。常識を覆すからこそ大発見となるのだ。実際、私自身の研究も、期待とは無関係な現象に出くわし発展することが多かった。
その体験から、学生さんには、予想外あるいは期待外れの結果には、じつは重要な意味が隠されているかもしれないと繰り返し言ってきた。既成概念に囚われず、意外な事象に関心を抱き、その意味を探ってみようとする姿勢こそが重要な発見につながるはずだ。意外性を見逃さない観察力も大切である。
偶然性は、人との出会いについても言えることだ。たまたま出会った人との会話から、凄いアイディアを思いつくこともある。行き当たりばったりの人生は、決して悪いものではない。次に、どんな偶然の出会いがあるか楽しみだ。
(たけいち まさとし/京都大学名誉教授)