椿玲未『カイメン すてきなスカスカ』〈著者からのメッセージ〉
人間目線、ちょっとお休みしてみませんか?
私たち人間は皆、さまざまな悩みを抱えながら生きています。深く懊悩し、もう生きてはいけないと思い詰める日もあるでしょう。しかし、ちょっと視点を変えるだけで前向きになれたり、悩みが軽くなったりするのも、人間という生き物の愛すべき特性ではないでしょうか。
辛いことがあったとき、私はよく海へ出かけます。海にはたくさんの生き物たちがいて、彼らなりの理に従い、懸命に生きています。本書の主人公、海綿動物(カイメン)も然りです。カイメンは脳も心臓も持たず、あるのはスカスカの体だけ。私たち人間の常識など、全く通用しません。そんな彼らを眺めているうちに心痛も忘れ、鼻歌なんぞ歌いつつ帰路に就くというのが、私のお決まりのパターンです。
本書副題は「すてきなスカスカ」としました。「スカスカ」は人間目線ではあまり良い言葉ではありませんが、カイメンにとっては、スカスカの体は命そのもの。副題を聞いた多くの人は笑いますが、私は真面目も大真面目。人間目線からちょっと離れて、「すてきなスカスカ」の世界を一緒に探検してみませんか?
(つばき れみ/海洋研究開発機構海洋科学技術戦略部アドバイザー)