國方栄二『哲人たちの人生談義 ストア哲学をよむ』<著者からのメッセージ>
ストア哲学から幸福の意味を問う
古代の哲学はおしなべて「幸福とは何か?」という問いから始まる。本書で取り上げるストア派の哲人たちもその点では同様であった。よく誤解されるが、ストア哲学は「みずからを律して、禁欲的に生きる」ことを標榜したわけではない。自分に厳しくと言っても、これはストア哲学にかぎるまい。また、彼らがとりわけ禁欲して生きることを主張しているわけでもない。
エピクテトスはストア派の教えを簡単に表現するために、「私たちの力が及ぶものと及ばないもの」との峻別を説いた。このたびの私の書物は、この言葉の意味をあらためて問い直すことを目標としている。それは私たちの力が及ばないものについては断念せよということなのかどうか。
古代において、ストア哲学はさまざまな批判を受けた。彼らの立場はある種の内観主義で、自己の外に精神を充足させるものを求めないのだから、人間精神の積極的な活動から身を引いて、ただ内面の満足のみを追い求めているだけではないのか。本書ではこうした批判を真摯に受けとめながら、改めてストア哲学にしたがって生きることの意味を探ってみることにした。
(くにかた えいじ/哲学者)