筒井清輝『人権と国家 理念の力と国際政治の現実』<著者からのメッセージ>
「綺麗事」の大切さ
人権理念について語る時、そんなのは綺麗事じゃないのか、現実はそんなに甘くない、といった批判がついて回る。確かに人権の理想実現への道のりは遠く、大国が幅を利かせる国際社会の中で理念の無力さが浮き彫りになる場面も多い。こうした現実を前にして、悲観諦観し、人間社会とはこの程度のものだと悟るのか、それとも現実を少しでも理想に近づけるための努力を続けるのか。後者を取る人の尽力のおかげで国際人権の実践は漸進的にではあるが、世界のあちこちで向上して来た。
理不尽な人権侵害を止められない、大国の論理がまかり通っている、文化や経済状況の違いを無視している、など国際人権の仕組みに対する批判には尤もなことも多い。それでも、世界中で多くの人々が人権理念を内面化し、その理想を現実のものとするための運動に立ち上がっている。「綺麗事」としての人権理念が目標として掲げられている限り、こうした現実と理想の距離を縮める努力は続けられる。開き直ったり、諦めたりすることに惹かれる人が増えている昨今、「綺麗事」の大切さを忘れたくないものである。
(つつい きよてる/スタンフォード大学教授)