行司千絵『服のはなし』〈著者からのメッセージ〉
装いの向こうにあるもの
二〇年ほど前、思うところがあって自分のふだん着を縫いはじめました。見よう見まねの独学ですが、いつしか同居している八〇代の母、知人、友人の服も手がけるようになり、新聞記者をしながら、服づくりを続けています。
ひとりひとりに似合う一着をイメージして、ワンピースの襟元に刺繍をしたり、ダッフルコートに革のポケットをつけたりするうちに、疑問が湧いてきました。手縫いが珍しがられるのは不思議だな。そういえば、布やボタンはどうやってつくられているのかな。たくさんの服が売られているのに、知人や友人が「ほしいものがない」と言うのはなぜだろう。そもそも、人がおしゃれをするのは何のため?
着ること、つくることの意味が知りたくて、昭和から現在までの服装や手芸の歩みをたどりながら、さまざまな人にはなしを聞きました。服は、体を守るだけでなく心と響き合っていて、想像していなかった世界と深く結びついてもいる。毎朝、身支度するたびに、そんな思いがよぎります。
(ぎょうじ ちえ/新聞記者、ときどき服をつくる人)