佐藤俊樹「百年の試行錯誤」<著者からのメッセージ>
百年の試行錯誤
本の世界にも伝統芸はあって、岩波新書ならば、やはりマックス・ウェーバーものはその一つだと思います。青山秀夫の明朗、大塚久雄の自信と屈折、山之内靖の逆転。今野元『マックス・ヴェーバー』で社会科学が全く語られなかったことも、時代を強く感じさせました。
その煌びやかな星座に連なる自信は全くありませんが、あえて第三者的にみれば、私の『社会学の新地平』にも、知と学術の現在は色濃く映し出されているのでしょう。歴史法則の消失、複数の近代、文理の壁をこえた学術の融合、そして社会のコミュニケーション的転回……。
そんな巨大な転換のなかで、ウェーバーが今なお古典であり続けていることに私自身も少し驚いているくらいですが、それはやはり、彼がつねに現代と格闘していた人であるとともに、社会学がこの百年の間さまざまな試行錯誤を重ねながら、ウェーバーからルーマンへと、一つの道を探りあてて歩んできた証しである。そう考えています。
(さとう としき/東京大学大学院総合文化研究科教授)